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2021年03月02日

推奨の本《GOLDONI/劇場総合研究所 2021年3月》

『文楽のこころを語る』 竹本住大夫著 
2003年 文藝春秋刊

 ーお腹とイキの関係は切っても切り離せません
 私は若いころから声が悪いので、女性や子どもは苦手でしたが、そんな私に、先代の喜左衛門師匠は「鼻使え」「眉間から声出せ」と、やかましく言われました。それには、下腹と腰に力を入れて、息をいっぱい吸って、鼻の裏に抜けさせて眉間から声を出すのです。それがなかなかできまへん。理屈でわかっていても、体で覚えんとあきまへん。舞台でばばっちい声を出して、お客さんの前で恥をかきました。
 それが、いつぞやふとできるようになったんです。喜左衛門師匠が「お前、鼻使えるようなったな」と言うてくれはったときはうれしかったですね。会得したときには文字大夫になってましたから、入門して、十四、五年たったころです。
 一つ自信がつくと、また一段上へ上がれて、「先輩方が言うはったのはこのことか」と新しい発見ができるんです。先輩方は教えてくれはりますが、声出して演るのは自分ですから、自分で勉強せなあかんのです。
 私は、うちの親父さんと越路兄さんの語りをよう参考にしてました。うちの親父さんは体も小さく腹力の弱い、声も悪い人でしたが、間のええ人で、浄瑠璃がはっきりしてました。浄瑠璃がはっきりしていることは、文章や言葉がはっきりわかるということです。私も腹力が強いほうではないので、親父さんの浄瑠璃のええとこを見たり聴いたりしていました。
 越路兄さんも、先代喜左衛門師匠に永らく指導していただいておられ、三味線も弾いてもろうておられました。失礼ながら兄さんも、そないに腹の強い人やおまへん。それやのに声の遣い方がうまいお人でした。どないしたら声を出せるかと、越路兄さんの浄瑠璃はよく聴かせていただき、永年お稽古もしてもらいました。
 私が《沼津》なんか語ると、「親父さんに似てる」とか「越路さんに似てる」とかよく言われますが、若い頃から参考にしてきた先輩二人に似てると言われるのはうれしいですよ。

 ー情を伝えるのが、大夫の商売でんねん
 大夫が声を出すためには、しっかりした呼吸法を身につけないといけません。声だけに頼ってたら声帯を痛めたり、文章がはっきりしないのです。体全体でゆっくり息を吐いて吸います。おへその下あたりに意識をおいてする、いわゆる腹式呼吸の応用です。声が前に出るということは、イキが前に出てるということですね。イキさえ出ていれば、小さい声でもお客さんによく聞こえるし、浄瑠璃もはっきりします。浄瑠璃は、声やのうてイキですね。
 詞の流れのなかで微妙に表現を変えるために、「イキを止める」、「イキを詰める」という表現をしますが、吐く息吸う息が大切で、「イキを詰める」から、ここに間をあけていると自然に情が出てくるのです。
 浄瑠璃の文章と文章の間の余韻を楽しむように、詞と詞の間、イキを詰めてる間に、お客さんに情を伝えるのです。「かわいそうやな」「哀れやな」「面白いなあ」と、心に響く情を伝えていきます。情を伝えるのが、大夫の商売ですねん。

  ー電車の車掌さんがアナウンスで「とう〜きょ〜う」と歌うように言います。あれも一種の音(おん)です。
 NHKの『文楽鑑賞入門』の録音で山川静夫さんと対談してるとき、音という言葉が出てきました。私が「声を浮かす」と言いましたら、山川さんが「電車の車掌さんが「つぎは、とう〜きょ〜うとう〜きょ〜う」という、あれも音ですか」と言われたので、「そうでんねん、音です。半音高い声で歌うてるように言いまんなあ。それを『イキを浮かしている』とも言いまんねん」と説明したら、山川はんが「なるほど」と納得したはりました。 
 音を言葉で説明するのはむつかしく、結局、耳で聞き分けてもらうしかありません。「とう〜きょ〜う」と歌うようにアナウンスする、これも一種の音、音曲の音です。 
 浄瑠璃は昔から、“フシに音あり、詞に音あり”といいます。浄瑠璃は音曲なのです。
  (「コラム❹ 浄瑠璃は声やのうて、お腹とイキと音で語るもんでっせ」より)