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2008年10月 アーカイブ

2008年10月02日

劇場へ美術館へ
≪GOLDONI/2008年10月の鑑賞予定≫

[演劇]
*26日(日)まで。               浜松町・自由劇場
劇団四季公演 『ブラックコメディ』
作:ピーター・シェーファー 訳:倉橋 健 演出:浅利 慶太
装置:土屋 茂昭  照明:沢田 祐二 
劇団四季HP http://www.shiki.gr.jp/

*4日(土)から12日(日)まで。     新宿・紀伊國屋ホール
劇団俳優座公演 『スペース・ターミナル・ケア』
作:坂手 洋二  演出:栗山 民也
美術:松井 るみ 照明:勝柴 次朗

[歌舞伎]            
*2日(木)から26日(日)まで。       東銀座・歌舞伎座
『芸術祭十月大歌舞伎』
夜の部
『本朝廿四孝』「十種香」「狐火」
『雪暮夜入谷畦道』「直侍」
『英執着獅子』
出演:菊五郎 田之助 玉三郎 団蔵 家橘 福助 菊之助 ほか

*4日(土)から27日(月)まで。       半蔵門・国立劇場
『大老』(作・演出=北條 秀司)
出演:吉右衛門 梅玉 魁春 東蔵 段四郎 歌六 芝雀 歌昇 ほか

[音楽]
*1日(水)。             江戸川橋・トッパンホール
『ハーゲン・クァルテット』
演奏:ルーカス・ハーゲン(Vn) クレメンス・ハーゲン(Vc) ほか
演奏曲目:ベートーヴェン:弦楽四重奏曲16番へ長調 ほか

*21日(火)。             上野・東京文化会館小ホール          
『秋吉敏子 ピアノソロコンサート』

*24日(金)。             江戸川橋・トッパンホール
『クリストフ・コワン チェロ・リサイタル』
演奏曲目:J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調 ほか

[展覧会]
*26日(日)まで。              丸の内・出光美術館
『近代日本の巨匠たち』
―上村松園 東山魁夷 佐伯祐三 板谷波山 富本憲吉 平櫛田中―

*4日(土)から11月30日(日)まで。 日本橋・三井記念美術館
『茶人のまなざし 森川如春庵の世界』

*12月23日(火)まで。            白金台・松岡美術館
『古伊万里展』

2008年10月03日

推奨の本
≪GOLDONI/2008年10月≫

『チャリング・クロス街84番地』 ヘレーン・ハンフ:編著
江藤 淳:訳・解説   1980年  講談社

ハンフ様
 贈り物のお礼状がおくれましたので、少々ご心配なさっておられるのではないかと拝察いたします。さぞ、恩知らずな連中とお考えのことでしょう。じつは私、当社の在庫があわれにも底をついてしまいましたので、それを充実さすべく書籍を少々購入するために、由緒ある家々を尋ね尋ねて、イギリス中をめぐり歩いてまいりました。妻は私のことを下宿人だと呼びはじめております。家には寝に帰って、朝飯を食べるだけだというのです。しかし、乾燥卵とハムは言わずもがな、おいしそうな、牛肉を持って帰ったときには、さすがの妻も、私のことを、すてきな方! などと申しまして、何ごとも許されてしまいました。肉のこんなに大きなかたまりを見るのは、じつに久しぶりのことです。
 私ども社員一同、なんらかのかたちで感謝の意を表わしたく、小冊をお送り申しあげます。お気に入りくださらば、幸いに存じます。いつでしたか、エリザベス朝時代の恋愛詩集を一冊お頼まれしましたね――手にはいりますものでは、これがいちばんご要望に近いものかと存じます。      
                                                       敬具
   一九五一年四月九日
                                      マークス社 内  フランク・ドエル

 
 チャリング・クロス街八四番地のみな様へ
 美しい本をご恵贈くださいまして、ありがとうございました。総金縁の書物を手もとにおくのは、私にとってこれがはじめてのことです。そして、とてもお信じになれないでしょうけれど、あの本、私の誕生日に着きましたの。
 (略)アメリカから、みな様にごあいさつをお送りします。アメリカって国、イギリスが飢えているのにそれを放っておいて、日本とドイツの再建に何百万ドルもつぎ込んだりして、ほんとうに不誠実な国ですね。神のおぼしめしがあって、いつかお国へ伺えましたら、私、アメリカの罪を個人的におわびしますわ(でも、私が帰国したら、今度はアメリカが、きっと私がイギリスで犯す罪のおわびを言わなくてはならなくなるでしょうね)。
 美しいご本のお礼、重ねて申しあげます。ジンやたばこの灰でよごさないよう、いっしょうけんめい大切にします。私ごときものには、ほんとうにりっぱすぎる本です。    
                                                       かしこ
   一九五一年四月一六日
                                                 へレーン・ハンフ
              
 
 (略)この心あたたまる往復書簡集は、おそらくアメリカ人とイギリス人のあいだにしか成立しなかったにちがいない。英国の有名な外交史家ハロルド・ニコルソンは、かつて英国は合衆国を仮想敵国としたことがない、したがって英国は合衆国とのあいだに攻守同盟を結ぶ必要がない、といっている。この言葉を裏書きするように、この本の著者へレーン・ハンフは、愛すべき英国崇拝家のアメリカ女性として登場する。自由販売が回復されてからもなお食料を送りつづける彼女の善意も、望みの英文学関係の古書を手に入れたときの彼女のよろこびも、いかにもイギリス的に控えめなフランク・ドエルの親切と好意も、すべてアメリカとイギリスとの文化的なきずなの強さを物語っているように思われる。
 へレーンが英国崇拝家であるおかげで、英文学のきわめつきの名作が、この本につぎつぎと紹介されているのもなかなか楽しい。しかも彼女の趣味は一流である。サミュエル・ピープスの『日記』にアイザック・ウォルトンの『釣魚大全』、それにジョン・ダンとならべば文句のつけようがない。それもそのはずで、自ら告白しているように、彼女はいわばQの、つまりクイラー・クーチの弟子なのである。
 だが、それだけではなく、ここにはまたへレーンの現代文学や新刊書への嫌悪が根強く暗示されていて、私は共感をそそられる。つまり、新しく、単に消費されるためにのみ存在してうたかたのように消えて行く書物や仕事に対する、絶望と嫌悪である。愛すべきアメリカ女性であるへレーンは、もちろんそれを大声で叫びたてたりはしていない。しかし彼女が生活を立てているのは、テレビの台本を書くことによってであり、彼女自身おそらくは本を書くことによってである。そのことに対する羞恥と反撥とが、彼女をいっそう深く"チャリング・クロス街84番地"に結びつけて行くという事情が、私にはうかがわれるように思われる。
 『チャリング・クロス街84番地』を読む人々は、書物というものの本来あるべき姿を思い、真に書物を愛する人々がどのような人々であるかを思い、そういう人々の心が奏でた善意の音楽を聴くであろう。世の中が荒れ果て、悪意と敵意に占領され、人と人とのあいだの信頼が軽んじられるような風潮がさかんな現代にあってこそ、このようなささやかな本の存在意義は大きいように思われる。(「解説」より)