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2016年04月03日

新聞・雑誌記事から 『銀座百点』2015年12月号

〈百点対談〉
無個性という超個性
前田吟×中尾彬

中尾 俳優座は知ってたの?
前田 全然。芝居を観る余裕なんてなかったし。まずは一年間、東京
芸術座の養成所に通って、そこで「シェイクスピアという人がいる
んだ」、「新劇ってのがあるんだ」と初めて知ったの。
中尾 普通は芝居を観てから俳優を志すのに、順序が逆だ(笑い)
前田 ほんとだよね。やっと俳優座養成所に入所したのが六三年。
中尾 夏八木勲、小野武彦、村井國夫、林隆三、高橋長英、栗原小巻、
地井武男、原田芳雄‥‥いわゆる「花の十五期生」だね。
前田 とはいえ当時はみんな無名で、学校とバイトに明け暮れてた。
俳優座の養成所は、二年の夏休みまで俳優として活動できない規則
があったからね。渋谷の居酒屋がたまり場で、同期やほかの劇団の
同世代の連中が毎日のように出入りしてて、彬さんともそこで初め
て会ったんだっけ。(略)

前田 俳優座の演技法というのは、まず気持ちを全面に出して、セ
リフが次にくる。彬さんがいた劇団民藝や文学座はセリフをはっき
りきれいに発音することを重んじていたでしょ。
中尾 特に文学座にその傾向は顕著だったね。発起人が岸田國士、
久保田万太郎、岩田豊雄(獅子文六)という文学者で、一時期は
三島由紀夫さんも所属してたことあるし、言葉の人たちの劇団
でしょ。だから、まず言葉があってから気持ちを出すという演技
法で、民藝もそれに近かった。
前田 気持ち先行の演技だと、映像はすごく構えて写っちゃうのね。
だから舞台から映像へ時代が変わるとき、俳優座出身者はそこから
脱皮するのに結構苦労したんだ。(略)
中尾 劇団の色を嫌う人というのは多かったね。私もいろんなところで
「なんだ、その芝居。新劇の芝居なんかするな!」というようなこと
をいわれたし。
前田 そういう困難を超えてきたから、ぼくら世代の俳優はしぶとく生
き残ってるんだろうな。