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2005年10月 アーカイブ

2005年10月03日

週末二日の営業を始める『GOLDONI』

先週末をもって、5年続けてきた『演劇書専門GOLDONI』の通常の営業を終えた。開業日にあたる9月13日から数日にわたって、mailでその旨のご挨拶を三百通ほど送信させて戴いた。以来、週末を中心に、そのmailと、当方のHPで通常営業の終了を知った方々の(中には初めてのご来店も。)最後のおつもりかもしれないご来店が相次ぎ、先月末の29日30日は、そんな事態を知らないフリの本探しの客もおちおち本を選んでいられないほど、時間によっては店内も店の外も、私を訪ねての訪問客で溢れ、碌にお相手も出来ず、お心遣いを賜っても数分でお帰り戴くようなことも多く、路地の周りの住人たちも、何の騒ぎかと覗きに現われるほどであった。

9月13日がGOLDONIの5周年であること、9月末での通常営業の終了と、次の構想の準備に入ることの案内と、HPのご笑読をお願いするmailであったが、来訪者の中には、この『提言と諌言』をお読みで(深読みされてか)、現在の演劇状況に絶望して、私がGOLDONIを畳み、どこぞへ消えてしまうのではとの懸念を抱いておられる方も多かった。中には休暇を取ったり早引けをしてお越し戴いたり、遠方から訪ねて見えた方も多かった。過分なお心遣いを賜ったりもしたが、そこには明確に餞別の意が含まれているものもあるかもしれず、また期せずして、来訪者それぞれの交情の念を改めて感じさせて戴く機会にもなった。

事前の来店予約制の営業形態を10月から始めようと計画していたが、30日の深夜になって、週末の金曜土曜の二日に限って店を開け、レファレンスなどに務めることを急遽決めた。週の他の五日間は、構想している『演劇空間GOLDONI』(仮称)のための調査研究と、事業の支援協力を依頼するために充てようと思っている。
事業の中身は、まだ固まってはいない。まだ固めようとはしていないというべきかもしれない。私ひとりでその青写真を描こうとは思っていない。当方のHPをお読み戴き、私の『提言と諌言』にお付き合い戴いている方が、協力してやろう、手伝いたいと、お声を掛けてくださることを、鶴首してお待ちしている。

2005年10月09日

『限定営業』幕開きの第1週

9月13日のGOLDONIの開業記念日にお送りした挨拶mailと、先日お送りした週末二日の限定営業のご挨拶mailに対して、今もご返事をお送り戴いている。先ほども、「店を閉じてしまうのかと心配していたが、金曜・土曜に開けてくれるのは有り難い。負担も大変だろうが頑張って欲しい」、「前のようには簡単に会えない分、HP、『提言と諌言』で、発言を知りたい」という激励のmailが続いた。
先週の月火水の三日は、ガラス扉の錠を閉め資料調べなどをしていたが、その三日とも、四季の元同僚や、他劇団出身の俳優など旧知の人たちが前触れもなく訪れ、彼等とゆっくり話が出来た。
木曜日は遠出をしてファミリーミュージカルのプレヴューを見、同席した旧知の新劇団演劇製作部門の青年と久しぶりに長時間話し合った。
金曜・土曜は古書即売会が開かれているからか、本好きのサラリーマンなど、初めてのお客様が続いた。メイルアドレスを知らず、週末限定営業をお知らせしていないご常連が数名来店された。
さて、明日からの2週目、とりわけ金曜・土曜の限定営業はどんなものだろうか。

2005年10月16日

『演劇製作』を学んでいた頃

7月22日の『提言と諌言』には、<昨今の『演劇製作』について考える>と題して、舞台費について書いた。今回は全国公演における移動費について書いてみたい。
今から三十年近く前の1970年代後半の話だが、業界トップの生命保険会社が主催するミュージカルの全国巡回公演の制作を担当していた時のことである。この公演は、東京での公演ののち、札幌、名古屋、大阪、神戸、福岡などの大都市で、各地教育委員会等との協力により小学校招待で催されるもので、キャスト・スタッフは四五十人規模にもなる大型・長期の公演。一行の移動は、当然だが長い距離となり、その運賃も旅公演予算の中で大きな比重を占めていた。
移動に掛る経費の算出は、その行程に沿って一人あたりの費用をもとに参加者の総数を積算して求める。例えば、ひとり20万円であれば、50人のキャスト・スタッフであれば、1,000万円である。
この保険会社はこれら経費の全額を請求させてくれるが、東京ー札幌、札幌ー福岡、福岡ー東京などの移動は無論、東京ー大阪、神戸ー東京などの新幹線での移動を認めず、すべて飛行機の利用を求めてくる。なぜか。先方は日本の航空会社の数パーセントの株式を所有する企業であり、大量の株主優待券を保有しており、それを一挙に数百枚単位で処理できる絶好の機会として、例えば航空運賃の半額相当の支払いをその優待券で済ませ、差額だけを支払ってくる。金券ショップなどで換金すれば額面や割引額の90%台になってしまうが、こちらに現金代わりに使わせれば、1円の損もない。
普段は、公演地の何ヶ所かを跨ぐ格安の長距離鉄道切符の購入や、航空会社との団体枠での割引や早期購入割引、タイアップ交渉などを積極的に行い、経費の削減に努めたが、さすがにこの保険会社が相手では、その手段が使えず、却って先方の強引なまでの経費削減策に感心してしまった。民間の、それもリーディングカンパニーの原価意識の徹底振りを学ぶ貴重な体験でもあった。 
これが文化庁の当時の移動芸術祭やこども芸術劇場などの全国巡回公演の場合は、先述の手だてを駆使した削減努力が功を奏して、常に数パーセント、時には2割近い経費減に繋げることが出来た。こちらのキャスト・スタッフが減員になり、その分の諸経費の減額を事前に申告しても、その当時の文化庁の担当官は、請求額の減少をとくに嫌った。何故ならば、予算は決めた時点の額をきれいに使い切ってこそのものだからである。残ってしまえば、次年度の予算折衝がマイナスベースの前提にならざるを得ない。だから、決めた額を全額使ってくれなければ困るのである。
三十年も前の話であるから、行財政改革が進んでいる今日、文化庁の役人たちも、変更が出て経費が減るならばその分を返せ、もっと削減努力をしてくれと、所管の関係団体や補助金・助成金の被交付団体には、口が酸っぱくなるほど言って回っているかもしれない。
時代は変わったか。

2005年10月17日

『在外研修』を実施する文化庁の『常識』と『言語感覚』

東京・初台の新国立劇場小劇場では、10月20日(木)から23日(日)の4日間、「文化庁芸術家在外研修の成果」と題する文化庁主催の演劇公演が行われる。この公演のチラシには、御丁寧なことに、「※文化庁芸術家在外研修(平成14年度から新進芸術家海外留学制度)」との記載がある。そこには、<文化庁では将来の我が国芸術界を担う芸術家を養成するため、昭和42年度から若手芸術家を海外に派遣し研修の機会を提供する「芸術家在外研修(新進芸術家海外留学制度)]を実施しています。これまでに派遣された芸術家は2,000人を超え、現在の我が国芸術界の中核的な存在として国内外で活躍しています。>と書かれている。
7月1日の『提言と諌言』の<在外研修制度利用者を自衛隊予備役に編入せよ>にも書いたが、この制度は、人事院が実施している「行政官長期在外研究員制度」の文化庁版とも言うべきものかもしれない。そこにも書いたが、最近はこの人事院の制度利用者のうちから、研修先の海外の大学院から戻ると、すぐに民間企業に再就職したり、独立起業するものが続出、官費(税金)による官離れ、独立支援のための留学になっている、との讀賣新聞の批判に、不承不承、人事院は、帰国後5年以内に官庁を辞めた者から留学時の授業料を返還させる(のではなく、その旨の念書を制度利用者に書かせる)ことにしたという。
文化庁のこの在外研修制度、どういう利用からか14年度からは留学制度と名称が変わったが、偶然だが、先の所謂、若手キャリア官僚を対象にした人事院のものとほぼ同数の2,000人超の派遣規模になっているという。
ただ、人事院の方の制度利用の経験者は現在、主要官庁の現役官僚、トップの事務次官から課長補佐、総括係長ポストの若手までのキャリア官僚である。どうあれ、日本の行政の中枢、あるいはその周辺の者ばかりだ。そして彼等の派遣は2年間。留学先は欧米の大学院あるいは研究機関である。これに対して、文化庁の制度利用者の場合はどうか。音楽、美術での派遣研修先は、概ね芸術大学(院)のようだが、演劇は違う。大学院などの教育研究機関に学ぶ者はほとんどいない。劇場で多少の研修をさせて貰うという程度の者から、偶にワークショップに参加し、専ら在留の日本人と交遊していた者、高校新卒でも入る「演劇学校」に通った者など、その実態は「留学」というものには程遠い。2年間、1年間、3カ月などの研修期間に、官費(税金)を使い、文化庁のお墨付き、大手を振って遊んできた、というものが大半である。帰国後の文化庁に提出する、形ばかりの研修レポートも自分で書けず、研修先で世話をした現地斡旋人に書いてもらう者が続出。1年の派遣でロンドンに遊んだ劇作家たちは、研修よりも戯曲やエッセイの仕事に精を出していた。研修先は任地扱いになっていて、途中帰国や研修地を離れてはいけないことになっているはずだが、中にはロンドンを離れ、香港で人妻のタレントとのアバンチュールを楽しんだ者まで出る始末。
さて、「芸術家」の「留学」というこの制度利用者で、「国内外で活躍してい」る芸術家とは、どんな人なのか。先に書いた7月からずっと思い出そうとしているが、その一人も思いつかない。
「音楽界」で言えば、小澤征爾、大植英次、大野和士、佐渡裕あたりが海外で(も)活躍する日本人指揮者だが、彼等はこの制度利用者ではない。ロンドン在住のピアニスト・内田光子やニューヨーク在住のヴァイオリニストの五嶋みどりは、「国内外で活躍」、というよりも海外で活躍する数少ない日本人演奏家だと思うが、彼等も違う。作曲の細川俊夫は、10年ベルリンで学んだが、彼は当然自費留学組だろう。坂本龍一が在研組とは聞いた事がない。
「演劇界」では、国の外で活躍している人を全く知らない。ニューヨークとかロンドンで、文化庁や国際交流基金などの支援を受け、数ステージの公演をしてくるくらいのことを、文化庁や演劇担当の新聞記者か演劇評論家、ライターのほとんどの世間知らずは別だが、真っ当なバランスのある常識人は、「国外で活躍」とは言わない。
したがって、「国外で活躍する」在外研修制度利用者の演劇人は、ひとりも存在しないのだ。
引用した文化庁の文章にある、「芸術界」「若手芸術家」との言葉に、違和感を感じる。この「芸術界」という言葉を、口にしたり目にしたことが今までなかった。「若手芸術家」もそうだ。「芸術界」同様に文化庁の造語だろうか。「若手漫才師」「若手噺家」「若手舞踊家」とはよく言うが、彼等もこれからは「若手芸術家」なのだろうか。
では、文化庁が40年で数百億円を使ってまで実施しているこの制度、果たしてその成果は?
行財政改革が叫ばれている折も折、文化庁としても施策の必要性正当性をアピールする機会でもあろう。
貴重な税金を使っての本腰の入ったものだろうから、なんとか時間とお金をやりくりして、国民のひとりとして、在外研修の「成果」を、文化庁の施策の「成果」を、しっかり確認してこようと思っている。

2005年10月18日

おかきや店主の『憂国の情』

何年か前のこと、歳暮の礼に、ある店のおかきの詰め合わせを戴いた。包を開けて、その店の商品カタログの後に書かれていた、その店主の挨拶に些か驚ろいた。
「地球環境問題を解決できるのは、天皇陛下お一人。天皇陛下に奏上申し上げたいが、どなたか陛下にお伝え戴けないか。」
そこに書かれた言葉は、店主の憂国の情が溢れ、感動した、ということはなかったが、大丈夫かなとの心配をしたほどだ。国を憂えるおかき店店主が、天皇にその救済を求めている時、いつもの台詞で恐縮、税金による補助金に骨の髄まで浸かってしまい、既にそれ無しでは生きていけない演劇人たちを批判し、なお一層孤立を深める私は、どなたに助けを求められるか。
最近は、「演劇人ばかりか文化庁や新国立劇場批判が烈しく、ついにキレてしまったのでは」と心配を戴くことたびたびだが、まだキレてはいない、つもりだ。演劇のジャーナリズムや批評の御連中も、それらの演劇人と殆ど変わらず、文化庁や新国立劇場の委員や役職、新聞社制定の演劇賞の選考委員を務めることが余程嬉しいのか、権威権力に靡くこと夥しい。もともと作品のことにしか興味と関心がなく、私が提示するような問題には、演劇人同様に、意識も理解する能力も持ち合せていないようで、新聞や雑誌で、補助金行政や補助金の不正受給の問題について書くべき今も、沈黙したまま。この人たちに助けを求めることは全くの無駄だ。
財務省の高官にはこの『提言と諌言』を読んで呉れている人々もいると聞くが、税金の無駄使いにメスを入れ、検査・捜査もすべき会計検査院や最高検察庁、警察庁の幹部職員とお付き合いがあり、彼等にこの『提言と諌言』を読むように勧めて下さる方は、いらっしゃらないものだろうか。
おかき店のあるじのように、天皇に助けを求めるほどの勇気は今もないが、こうお願いしても、かえって気は確かかと訝る人、怖がってより遠ざかる人ばかりだろうか。

2005年10月19日

新国立劇場も顔負け チケットをばら撒く『文化庁主催』演劇公演

明日10月20日から23日までの4日間行われる文化庁主催の在外研修の成果公演については、一昨日の、この『提言と諌言』でも情報宣伝に努めた。敵に塩を送るほどの心境ではないが、文化庁からは今のところ挨拶は、ない。
噴出する諸問題の処理で大童の文化庁だろうから、その非をなじるより同情すらするが、こちらからはもうひとつ、新しい情報を提供しようと思う。
この文化庁公演、制作を社団法人日本劇団協議会という文化庁認可の団体が請け負っており、従って文化庁公演と銘打っているが、国の予算(税金)を使って、この団体に丸投げした公演、ということである。
その日本劇団協議会は、2週間も前から、90ほどの加盟の劇団・芸能プロダクション宛に、動員(無償観劇)要請の文書を、ファックスで流しているという。
6月のベルリナー・アンサンブル招聘公演では、芸術監督の思い入れによる高い買物に、嫌気でもさしたのか営業努力を惜しんだ末の辻褄合わせ、なんとか客席を埋めたいと思惑からか、新国立劇場の職員や公演スタッフなどが動員活動を大々的に展開、数千枚のチケットを無償でばら撒いた。(このことについては、7月24日の『提言と諌言』<チケットをばら撒く『新国立劇場』>に書いたので、そちらをお読み戴きたい。)
新国立劇場の動員対策は、電話や口コミでの証拠を残さない方法で行われた。それに引き換え、文化庁・日本劇団協議会の方は、加盟団体向けへの通常の連絡(を装うほどの作為もなさそう。)のようだ。いずれ取り上げるが、文化庁の助成制度が、当然のことながら予算消化を第一義とし、支援先の自助努力、将来の自立、国の支援無しでも存続させるというところにはなく、助成金の対象になる経費を架空に水増しして、赤字額を大きく見せなければ、助成額が下がる、という制度の欠陥があるので、そのことに慣れ切った被交付団体は、チケットを販売することには情熱と関心は既になく、不正受給に精力を注ぎ、体面、形を整えなければならないときには、この動員というチケットのばら撒きで凌ぐのだ。この発想、先の新国立劇場の仕出かしたものと同じだ。今回の文化庁主催公演は、助成公演ではないので、収入は当然のことだが、国庫に入るべきものだろう。今回の舞台と客席がどんな構造かはまだ判らず、4ステージの総座席数(キャパスティー)が何席かも判らないが、例えば1,200席と仮定したら、3,500円のチケット価格で販売すれば、420万円の総売上になる。
出演する俳優からは、チケット販売のダイレクトメールが届いている。何枚出たか判らないが、チケットぴあでも扱っていたから、最初から販売する予定ではあったのだろう。3,500円の正規料金で販売、予約されたチケットを持った有料観客と、そして大量のばら撒き無償チケットに手にした演劇関係者というものが鉢合わせする、明日からの新国立劇場小劇場。「割引はありません。当日預けにします」。出演俳優からの誘いに応えて、チケットを予約した者が、明日、あさって、劇場の受付で目にするものは、日本劇団協議会加盟の劇団などの、ただ見の俳優やスタッフ、養成所の生徒が、ばら撒きチケットを手にするところだ。
チラシ等で公演を知って、チケットを用意したり、予約をした観客が、この光景を目の当たりにしたら、どう思うだろうか。チケットは殆ど売れていないとも聞くから、そんな心配は杞憂だということか。
チケットをばら撒くことを文化庁が認めたのか。文化庁の指示だったのか。それとも、文化庁は与り知らぬことで、「日本劇団協議会が決めたこと。制作担当責任者を呼んで調査する」、とでも仰るのだろうか。
関西文化芸術協会の補助金不正受給、科学研究費の不正.・流用が発覚、厳しさが予想される来年度予算折衝など、難問山積の文部科学省・文化庁。明日からの『文化庁主催公演』のチケットばら撒きなど、取るに足らぬこと、見てみぬ振りを決め込むつもりなのだろうか。

2005年10月22日

『文化庁助成金の不正受給』について

衆議院選挙も終り、行財政改革、行政組織、予算歳出のスリム化についての議論が、自民党からも民主党からも論じられ始めた折、文部科学省の科学研究費などの度重なる不正受給や、文化庁の舞台芸術振興策の柱ともいえる、芸術創造活動支援事業『新世紀アーツプラン』の採択団体が、文化庁(税金)からの支援金を不正を働いて受給していたことが初めて明らかになった。今回は、このことを報じた一連の讀賣新聞の記事から、事実関係を整理してみる。

10月14日の讀賣新聞大阪本社版朝刊1面と社会面には、
<関西芸術文化協会『オぺラ振興で不正受給』>、
14日の同紙夕刊には、
<『寄付金に偽装』大阪市分も不正受給>
との記事が載った。15日付けの産経新聞の記事も参考にして、事態の概略を纏める。

財団法人「関西芸術文化協会」が、2004年度までの3年度にわたって受け取った文化庁の助成金約1億1400万円のうち、計約2700万円を不正受給していた。他にも、大阪府、大阪市の補助金も不正受給していた。
文化庁の04年度までの助成金制度「新世紀アーツプラン」は、舞台芸術でトップレベルの団体に、3年間を区切って、公演経費の3分の1を限度に赤字の範囲内で支援するもの。
文化庁や大阪府によると、同協会は、傘下の関西歌劇団が年3回行うオペラ公演が助成対象で、02、03年度がそれぞれ4000万円、04年度は3400万円を受け取っており、府からも各年度に220万から90万円の補助金を受給している。
元協会幹部らの証言や内部資料によると、03年3月に大阪市内で上演された『源氏物語』では、総経費2千数百万円のうち800万円を文化庁が助成、府は90万円の補助金を支出したという。その手口は、「衣装費」「小道具費」などの名目で、京都の二つの業者に、架空の領収書を作らせ、520万円を支払ったように偽装するという悪質なもの。他の公演でも、約2200万円分の偽領収書で不正を繰り返すなどし、不正受給が常態化していたという。
文化庁と大阪府も不正受給の概要を確認しており、総額が確定次第、協会側に返還を求めるという。

また、16日の同じ讀賣新聞では、
<同一公演なのに異なる決算書、文化庁と大阪府に提出>、
として、この「関西芸術文化協会」が文化庁と大阪府に提出した収支決算書の内容が、支出総額を含めて大きく異なっていたことを報じている。支出総額で約400万円の開きがあり、多くの費目でも支出が相違しているという。その中身は、例えば、「各種アルバイト賃金」は、文化庁の50万円に対し府は約7万円、「チラシ・ポスター印刷費」は、文化庁が60万円なのに府は約20万円。
「プログラム印刷費」は、文化庁が40万円で府は約28万円など、計上された金額がそれぞれ異なり、全体的に文化庁分がかさ上げされている。
さらに、文化庁分に記載された支出総額約2600万円自体、すべての費目を合計しても合致しない、でたらめな数字で、協会が支出総額欄だけ、適当に助成規定をクリアさせる金額を記載した可能性も高い。
文化庁の助成限度の規定に従えば、助成金を減額される支出総額だったため、不正を承知で操作したという。

18日の讀賣新聞は、
<不正受給問題 芸術団体助成巡り文化庁が緊急調査>、
として、文化庁が17日に、音楽や演劇などの芸術団体を支援する制度「アーツプラン」で助成を受ける団体に対し、助成金を不正に請求・受給していないか確認する緊急経理調査を今月中にも始める、と報じた。
 同紙によれば、「アーツプラン」は1996年度に始まり、オペラやオーケストラ、演劇、舞踊など、トップレベルの芸術団体が対象。昨年度の対象は計101団体、約66億円の予算、とある。

この1週間、新聞社を含めて各所から取材を戴く。中にはうちにも調査が入るのだろうかとの心配から問い合わせてくる団体もあり、「架空経費などの操作をしていなければ、問題はないだろう」と言えば、皆一様に沈黙する。「不正はいけません」。私の最後の言葉はいつもこうだ。
10年前の95年、社団法人になり立ての日本劇団協議会の主催する、この助成制度の説明会を聞きに行った。
俳優座の千田是也氏が主催者代表として壇上におられた。私が氏の最後の姿を見た時だった。
文化庁の担当の課長、専門官の説明が終り、質疑が行われた。その中で、劇団協議会のある役員が立った。むこう(文化庁、あるいは国か。)が出すって言っているんだから、貰おうじゃないか。そんな発言だった。反論、その発言をたしなめる声はなかった。私は失望した。公金を投入して何の意味があるだろう、彼等は不正を働くだろう。そう思った。そして、この報道に接した今、そう思っている。96年の実施当初から、不正をしていない、と断言できる団体はあるだろうか。関西文化芸術協会の不祥事が、氷山の一角であることを否定するものはいないだろう。
税金を不正に使う、それ以上に、国民としての務めを果たすことを忘れ、ましてや演劇(音楽)、物作りに対しての不誠実な姿勢は、日本の舞台芸術の世界に瀰漫している。
卑しいものを卑しいと批判する私自身が、知らず知らず望まないことだが卑しい人間になっているのでは、との恐れを抱き、逡巡しながら煩悶しながら、『提言と諌言』を書く今日この頃である。