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『演劇製作』を学んでいた頃

7月22日の『提言と諌言』には、<昨今の『演劇製作』について考える>と題して、舞台費について書いた。今回は全国公演における移動費について書いてみたい。
今から三十年近く前の1970年代後半の話だが、業界トップの生命保険会社が主催するミュージカルの全国巡回公演の制作を担当していた時のことである。この公演は、東京での公演ののち、札幌、名古屋、大阪、神戸、福岡などの大都市で、各地教育委員会等との協力により小学校招待で催されるもので、キャスト・スタッフは四五十人規模にもなる大型・長期の公演。一行の移動は、当然だが長い距離となり、その運賃も旅公演予算の中で大きな比重を占めていた。
移動に掛る経費の算出は、その行程に沿って一人あたりの費用をもとに参加者の総数を積算して求める。例えば、ひとり20万円であれば、50人のキャスト・スタッフであれば、1,000万円である。
この保険会社はこれら経費の全額を請求させてくれるが、東京ー札幌、札幌ー福岡、福岡ー東京などの移動は無論、東京ー大阪、神戸ー東京などの新幹線での移動を認めず、すべて飛行機の利用を求めてくる。なぜか。先方は日本の航空会社の数パーセントの株式を所有する企業であり、大量の株主優待券を保有しており、それを一挙に数百枚単位で処理できる絶好の機会として、例えば航空運賃の半額相当の支払いをその優待券で済ませ、差額だけを支払ってくる。金券ショップなどで換金すれば額面や割引額の90%台になってしまうが、こちらに現金代わりに使わせれば、1円の損もない。
普段は、公演地の何ヶ所かを跨ぐ格安の長距離鉄道切符の購入や、航空会社との団体枠での割引や早期購入割引、タイアップ交渉などを積極的に行い、経費の削減に努めたが、さすがにこの保険会社が相手では、その手段が使えず、却って先方の強引なまでの経費削減策に感心してしまった。民間の、それもリーディングカンパニーの原価意識の徹底振りを学ぶ貴重な体験でもあった。 
これが文化庁の当時の移動芸術祭やこども芸術劇場などの全国巡回公演の場合は、先述の手だてを駆使した削減努力が功を奏して、常に数パーセント、時には2割近い経費減に繋げることが出来た。こちらのキャスト・スタッフが減員になり、その分の諸経費の減額を事前に申告しても、その当時の文化庁の担当官は、請求額の減少をとくに嫌った。何故ならば、予算は決めた時点の額をきれいに使い切ってこそのものだからである。残ってしまえば、次年度の予算折衝がマイナスベースの前提にならざるを得ない。だから、決めた額を全額使ってくれなければ困るのである。
三十年も前の話であるから、行財政改革が進んでいる今日、文化庁の役人たちも、変更が出て経費が減るならばその分を返せ、もっと削減努力をしてくれと、所管の関係団体や補助金・助成金の被交付団体には、口が酸っぱくなるほど言って回っているかもしれない。
時代は変わったか。