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推奨の本《GOLDONI/劇場総合研究所 2020年12月》

『人間 昭和天皇』下  髙橋 紘著
    講談社  2011年刊
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 奥村罷免の真相
 ところで『入江日記』(一九四七年五月九日)に「奥村勝蔵氏はこの間のマッカーサーとの会見(第四回、五月六日)の事につき懲戒免職になった由」とある。
 奥村は、天皇、マッカーサーの第四回会見で天皇が日本の防衛についてマッカーサーに質したところ、「(米国は)カリフォルニアを守るのと同じように(日本を)守る」といった内容をオフレコで記者に話し、それを米国人記者が報道したとの理由で免職になった。しかし、犯人は上司の終戦連絡中央事務局次長の白洲次郎だった。
 白洲は吉田の子分で昨今では「GHQと堂々と渡り合った、あの時代にありながら米国を軽蔑した英国紳士、ダンディズムの代表」などと格好よく言われている。しかし、気に入らない人間をパージしたり、貿易庁長官時代には”ファイブ・パーセンター”(口利き料として五パーセントを取る)と言われたりなど、とかくの噂があった。「巨大な利権と重大な政策決定が絡む現場にあり、男ぶりのみで括れるものではない」(川島高峰『朝日クロニクル 週刊20世紀 1945年』)との評価もある。
 のちに奥村は復権して外務次官になったが、三十年後、リークしたのは自分ではない。それを天皇にまで誤解されていては死にきれない、と病床で宮内庁外事担当の式部官に依頼し、天皇に訴えた。 
 天皇は「奥村に全然罪はない、白洲がすべてわるい。だから吉田が白洲をアメリカ大使にすすめたが、アメリカがアグレマンをくれなかったのだ」と断言している([入江]一九七五年九月十日)。白洲は自分の発言の責任を奥村にとらせて、頬かぶりしていた。
 (「第八章 現御神からの解放 1 マッカーサーとの対決」より)

 訪米への流れ
 沖縄返還に目途がつくにつれ、佐藤首相のなかに沖縄復帰を戦後のひと区切りとし、天皇訪米を総仕上げにしたいとの、さらなる”野望”が生じたように思われる。
 天皇のヨーロッパ訪問が答礼訪問と位置づけられていたのにたいし、米国は対戦の主要相手国であり、日本政府は天皇から訪問すべきだ、と言っていた。 
 一方、当時のアーミン・マイヤー駐日大使は、天皇皇后の訪欧を受けて「日本の政治システムにおいては、天皇は実態的な意味をもっていない」が、国民の多くは「国家のシンボル」と認識しており、天皇外遊が日本の国際社会復帰を「象徴する」との評価を下している。 
 アメリカ政府部内では、「日米関係に与えている重要性を示す上で有用だ」と考えられており、「昭和天皇の政治的価値を認めていたといってよい」との判断があった(吉次公介『戦後日米関係と『天皇外交』」『象徴天皇の現在』)。
 
 佐藤栄作の思惑
 一九七一(昭和四十六)年十二月三十一日、佐藤は内奏、円切り上げ、沖縄復帰問題など、この一年の内外情勢を総括的に話した。 
 話題は天皇自身の訪米に移った。
「ところで佐藤は、ニクソン大統領来日について、また私の米国訪問についてどうおもうか」
 佐藤はこの夏の米中復交、円切り上げのダブルショックを考えると、「自分には迎えの情態には自信がないので言葉をにごす」と、日記に書いている。 
 その後を箇条書きで示す。
 一九七二年五月十五日‥‥沖縄が本土に復帰
    六月九日‥‥‥キッシンジャー補佐官が来日。天皇訪米について語る
   七月六日‥‥‥佐藤内閣総辞職。後継は田中角栄
 キッシンジャー来日の際、宇佐美はこう釘を刺すのを忘れなかった。
「宮内庁は正式には聞いていない。日米間は戦後、政治的、経済的に深い関係にあるが、陛下のご訪米が政治的に利用されるようでは困る」
 佐藤の思惑は実現しなかったが、政権交代の内奏のとき、こんなことがあったようだ。 
「あとから聞くところによると、贅沢な盆栽を持ってくるな、とか、アメリカに行くことになっても前総理は随行するななど、相当なことを仰有ったらしい」([入江]一九七二年七月七日)
 天皇自身、訪米には前向きだった。しかし、佐藤があの手この手を用いながら要請を繰り返すことに対して激怒したのである。
 天皇は私心のある者を嫌った。だから米国に行くことになっても佐藤の首席随員など絶対ダメ、と言ったのだろう。
 (「第十一章 皇室外交 2 昭和天皇の一九七五年」より)