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「新国立劇場の開館十年」を考える(十六)
≪巨額な国費が投入されながら、理事長・芸術監督が専念しない不思議な劇場(四)≫

 パチンコ施設業者の団体の長に収まる元文部科学大臣
今回は遠山敦子理事長が兼職する、全日本社会貢献団体機構会長職について書く。
 NHKの会長に就任したばかりの福地茂雄氏が、会長職に専念することなく、「非営利の組織で非常勤の務めだから」と兼職を続けるとしたポストの一つが、社団法人企業メセナ協議会理事長の職である。企業メセナ協議会は、大手企業を中心に150社の会員で構成する企業による文化貢献のための団体。全日本社会貢献団体機構という名は、遠山氏の数多い兼職ポストを調べ始めたつい最近になって知った。先の企業メセナ協議会の設立を主導したのが、フランスの文化支援に詳しかった朝日新聞元パリ支局長の根本長兵衛氏であったので、「全日本社会貢献団体機構」という何とも大きく立派な名を持つ団体は、朝日新聞に強い敵愾心を持つ読売新聞が設立を画した新しい文化支援組織なのかとも思ったが、実のところは、パチンコホール業者の全国組織・全日本遊技事業協同組合連合会が母体となって作った任意団体であった。「全日本」も「社会貢献」も充分に立派だが、「機構」には驚いた。「機構」という名を冠した任意団体が他にあるのか寡聞にして知らないが、パチンコホール業者の志の高さ、社会貢献への意気込みが強く感じられ、私も公益法人を設立する折には、「全宇宙劇場文化貢献機構」とでも命名しようかと思うほどだ。ただそれだと、「宇宙劇場」というパチンコホールチェーンの経営者になったようで、あっぱれ過ぎるか。
 この団体は、平成17年12月に、全日本遊技事業協同組合連合会の地方単組が続けてきた社会貢献事業を全国規模で進めていこうとの趣旨で設立した任意団体だが、名誉会長は日本画家で、日本美術界のドンともいわれる平山郁夫氏。顧問は、塩川正十郎元財務大臣、美術史・美術評論の泰斗である高階秀爾東京大学名誉教授など。理事・評議員には、全国のパチンコホール経営者に交じって、社団法人日本ユネスコ連盟の理事長や、平山氏が会長を務める「文化財保護・芸術研究助成財団」の専務理事、アサヒビールの会長、全日空の最高顧問、東京芸術大学学長の宮田亮平氏など、平山氏と親しい人物が名を連ねている。遠山氏の就任挨拶にも、平山氏からの推挙で会長を引き受けたとある。
 この団体の活動の柱は、加盟する地方の単組が行う社会貢献事業を顕彰すること、学術、文化、命の大切さについての研究・事業活動に助成することのようだ。研究・事業助成については既に34事業を助成したそうで、その主なものを拾うと、「日中韓文化交流フォーラム」を主催する「文化財保護・芸術研究助成財団」に一千万円(17年度)三百万円(19年度)、シンポジウム「危機にさらされている世界遺産をどう守るか」を主催する社団法人日本ユネスコ連盟に四百万円(18年度)、東京芸術大学学長の宮田亮平氏が同人である「美術運動体 九つの音色」に三百万円(19年度)、そして、遠山敦子会長が理事長を務める新国立劇場の「こどものためのオペラ劇場」に五百万円(18年度)、四百万円(19年度)など。さすがは芸術文化の世界に君臨していると言われる平山郁夫氏の主導するこの活動、この団体の役員が関わる事業に助成金が給付されている。この分では、来年度は、高階秀爾氏が館長を務める大原美術館や、氏が大学院長を務める京都造形芸術大学の主催事業が助成されることになるのかもしれない。社会貢献事業を顕彰する審査には、理事でもある地方協同組合の代表者は参加しないなどの適正な運営をしているのだが、この研究・助成事業についての審査は、上記のように、平山郁夫氏、遠山敦子氏始め主だった役員のところに助成することを、その当事者たちが決めている訳で、極めて不適正な審査だと言わねばならない。
 今年の遠山敦子会長の新年挨拶には、この団体が「全日本遊技事業協同組合連合会が母体となり、学識経験者、文化人、政財界関係者が参加して設立された第三者機関です。」とあった。昨今は死語のようになった「文化人」という言葉に久しぶりに触れた。「学識経験者」「政財界関係者」の範疇には入らないご自身を、「文化人」と規定したかったのかもしれない。また、この任意団体が「第三者機関」とは、どういうことだろうか。こういう組織を、「第三者機関」とは言わないのではないか。「国語の改善及びその普及」についての事務を司る文部科学省の元大臣にして、この国語力である。
 この団体の母体である全日本遊技事業協同組合連合会は、助成審査の実態を調べるために、それこそ「第三者機関」を設けるべきではないだろうか。