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見識・良識なき「学識経験者」が巣食う『芸術祭』

アメリカ最大の演劇賞であるトニー賞は、毎年6月にニューヨークのラジオシティ・ミュージックホールに六千人の出席者を集めて開かれる。選考には凡そ七百人の演劇製作者、舞台関係者、演劇ジャーナリストがあたる。全米各地でどれほどの演劇賞があるのかは詳らかではないが、このトニー賞は、選考に加わる人の数といい、オン・ブロードウェイの数千人の関係者が会場に集うことといい、何ともスケールの大きなものである。ちなみに1976年のトニー賞は、主演男優賞を『マイ・フェア・レディ』のジョージ・ローズに譲ったほかは、作品賞はじめ主演女優、作詞・作曲、演出、振付の賞を、先日このブログで取り上げたマイケル・ベネットたちが作った『コーラスライン』が独占した。
はたして日本の賞事情はどんなものか。歴史のあるものでは、1946(昭和21)年に制定された文化庁芸術祭賞がある。これは毎年秋の約一ヶ月の開催期間中、この芸術祭に参加した個人・団体を対象に、文化庁が依頼した「学識経験者等」専門家数人が審査選考し褒賞するもの。文化庁の開催要項には、入場券を審査委員全員と文化庁の事務方に届けることが記されている。まず、文化庁がどういう選考基準で審査委員を選んだのか、行政の追認機関ではありがちな審議会などの構成メンバーの選定同様、まったく不明だ。選考そのものも委員の投票で決まるのか、話し合いで決まるのか、文化庁事務方からの指示で決まるのかは不明。選考過程も公表されておらず、すべて密室での審査であることから、「談合」によって受賞者を決めているだろうと疑う人もあり、公正、平等、情報公開など、この時代に求められている行政の業務執行のあり方からも大きく逸脱している。こういうものに審査委員として参加する「学識経験者」や、参加する団体・個人の時代感覚の無さや民度の低さが、政治同様に行政の怠慢を許しているとも言える。
それはともかく、芸術祭に参加する個人・団体に対して、個別に審査委員と事務方にチケットを届ける、というやり方も前時代的・不合理。これは、芸術祭開催前に、チケットを文化庁に届け、事務方はそれをまとめて審査委員に渡せば済むこと。個別にチケットを審査委員に送れということは、それこそ事前の賞取り工作を是認し、あるいは奨励していると疑われてもしようのないもの。演劇部門のことは知らないが、舞踊部門では、公演の当日の招待受付で、お車代・お食事代を封筒に入れ、チケットとともに公然と審査委員に渡しているそうだ。文化庁長官が委嘱した選考委員諸氏、「こんな買収や不正はいかん」と受け取りを拒否する人物はいないようで、少額とは言え文化庁からのお手当と、参加者からの「お心付け」と、無料での鑑賞という、哀れなほどに貧乏臭く舞台を汚すほどの卑しい好事家ぶりである。芸術祭だけではないが、文化庁の芸術文化支援事業のうちの大半に、このような「学識経験者等の専門家」が選考・審査委員として助成対象の決定に参与している。そうであるからには、この選考・審査委員は準公務員、みなし公務員のようなものではないか。演劇などでは常態化しているが、この手の「学識経験者等」に括られる批評家やジーナリストなどは、普段からチケットを買い求める習慣が無く、観たいと思う公演でも招待状が届なければ自ら電話でチケットを強要する者(このブログの2月6日<『4月の崩壊する』か、NHK新体制>をお読み下さい。)、学生のような若い娘を連れ、その分のチケット代すら支払おうともせずに受付で主催者側と揉めるといわれる大学の教員など、愚劣なさまは枚挙に暇が無いほど。チケット代、お車代、お食事代の支出・受領は、官吏が禁じられている贈収賄そのものである。以前、音楽や演劇の個人・団体から、商品券などを受け取ったとして文化庁の文化普及課の事務官が逮捕されたことがあり、その数年前には、当時の文化庁の文化部長が同様に新型自動車を提供された疑いを芸術雑誌に指摘されたことがある。以来、綱紀粛正が進んでいるのか文化庁職員が自ら不正に手を貸すなどの噂は聞かない。
舞台芸術をめぐる周辺環境は、先の助成制度や官・民の支援機関の新設や新国立劇場の開場、あるいは阪神・淡路大震災などの災害から学んだボランティア活動の積極化などで1990年代に大きく変わった。特に目立つ変化は、それまでとは比較にならないほどの大きな額(税金)が舞台芸術に投入されるようになったことだ。であればなおのこと、事業の適正な執行、不正の排除、情報公開は当然であり必至である。不心得な、見識の無い「学識経験者」たちのご機嫌を取り、懇ろにならなければ、芸術祭賞や新聞社の舞台芸術(演劇)賞、そして助成金が獲得出来ない現状である。文化庁や助成団体の審査委員であること、新聞社の賞の選考委員であることをちらつかせ、劇団や劇場からチケットを強要、パンフレットやホームページ等での執筆機会をものにし、なかには演劇の製作団体や劇場への助成金の獲得、不適正な経理処理にまで加担しているといわれるほどの「学識経験者」を、文化行政の周辺から、そして舞台芸術そのものから一掃すべきである。
文化庁に芸術祭の取りやめを勧める所以である。