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「新国立劇場の開館十年を考える」(二十六)
≪次期芸術監督人事について(三)≫

 新国立劇場の次期芸術監督の選出を巡る一連の動きの中で、新国立劇場の対応はどんなものかを少し紹介する。
 選考プロセスの詳細開示を求めた演劇関係者の声明を受け、劇場は7月17日に回答したことを、そのホームページの「最新ニュース」で伝えている。

「芸術監督選定プロセスの詳細開示を求める声明」に対する回答について
2008年7月14日付で、演劇人有志と日本劇作家協会、日本演出家協会、国際演劇評論家協会日本センターから、新国立劇場運営財団にだされました「芸術監督選定プロセスの詳細開示を求める声明」につきまして、「次期演劇芸術監督の選考とその考え方」として、7月17日に返答いたしましたのでお知らせいたします。
 新国立劇場をご支援くださっている方々には、ご心配をおかけしましたことをお詫びいたします。今後も、皆様により愛され親しまれる劇場をめざして、職員一同全力で精進してまいりますので、引き続き、ご支援くださいますようお願い申し上げます。
 *一部の理事から、審議内容が公開されたことについて

 「次期演劇芸術監督の選考とその考え方」と題する回答を簡単に要約する。
 「日本に定着していない芸術監督制度を取り入れ」て劇場が発足し、多くの成果をあげた。これは、演劇部門でも過去11年で「現監督を含む歴代4人の芸術監督をはじめかかわった芸術家の皆様のご努力の結果と認識している」などと前文にある。
 本文は、<演劇芸術監督の業務内容><演劇芸術監督の任期と現監督><選考過程><理事会後の動き><今後の対応><新国立劇場運営の透明性について>の6項からなり、全体としては、この問題についての劇場執行部としての手落ち、誤まった運営は全くなく、劇場執行部には非はないとの主張を展開するものである。最後の項「新国立劇場運営の透明性について」は、特にこの回答の眼目と思われるので、その全文を転記する。
 「新国立劇場運営財団では、芸術・文化団体、芸術家、言論界、教育者、経済界等の幅広い分野から、各界を代表する高い識見を有する方々に、理事、評議員にご就任いただいている。重要な議題については、詳細なる資料を上程の上で、これら理事・評議員により、真剣かつ闊達なる議論・審議を行い、国立の劇場として国民の皆様の負託に応えられる様な、透明性の高い運営を行っている。また、理事会・評議員会の議決・報告案件については、従来より、国民の皆様への説明責任を十分に果たすとの方針のもと、会議後、遅滞無くマスコミ各社の方々に対してブリーフィングを行い、劇場運営全般についての理解促進に努めている。
 一部の報道に、官僚主義、お役所的、秘密主義との指摘があるが、劇場の運営や重要事項の決定プロセスは上記の通り、高い透明性が担保されている実態とは全く乖離したものであることを申し添えたい。」
 
 上記のように、この日の「最新ニュース」にある、<*一部の理事から、審議内容が公開されたことについて>も、全文を転記する。
 「そもそも、新国立劇場運営財団の理事会で芸術監督選任に関する審議内容は非公開で行われています。それは席上多くの個人名やその資質、評価などが話し合われており、自由闊達なご意見をいただくためです。したがって、討議に参加される方々にも守秘義務があります。このような会議の内容を公開することは問題であり、また、一時間にわたる会議の一部をとりあげることは恣意的な引用の恐れがあり不適切であると考えます。財団の運営に携わる理事として、遺憾なことと考えております。」

 転記したように回答の「新国立劇場運営の透明性について」には、「新国立劇場運営財団では、芸術・文化団体、芸術家、言論界、教育者、経済界等の幅広い分野から、各界を代表する高い識見を有する方々に、理事、評議員にご就任いただいている。」とあるが、この文章の書き手、主体は誰か。例えば、文部科学省が、その施策の追認機関のような審議会について述べるのであれば、こういう書き方もしよう。しかし、財団理事・評議員という自分の身内に対して、「高い識見を有する方々」で「ご就任いただいている」とする表現は、些か異常である。協働意識のみごとな欠如と、劇場は自分達執行部だけのものとの強い姿勢は充分に伝わるのだが。
 一般論としては、組織の最高議決機関の討議を非公開にしていることはままあることで、それを怪しむにはあたらない。ただ、独立行政法人の所有する国立施設の運営を委託されていて、国民の税金がその運営経費八十億円の7割を占める公益法人の理事会の討議内容は、ホームページで議事録として公開するべきものだろう。討議に参加した理事に、「守秘義務があ」るとのことだが、「新国立劇場運営財団寄付行為」を読む限りは、理事に会議内容についての守秘義務は課していない。また、「遺憾なことと考えて」いるのは運営財団なのか、或いは理事長なのかが判らない。そもそも、この回答者が、「財団法人新国立劇場運営財団」となっているが、最高議決機関である理事会に諮ったものなのか、遠山敦子理事長以下の常勤理事によるものなのかが判らない。常識(民間人の、と限定すべきか)的に言えば、財団の最高議決機関に諮らずに、その財団の理事について、遺憾表明をするとは考えられない。この「最新ニュース」でも、一連の新聞報道でもその点は触れられていない。
 官僚や、新聞ジャーナリストには、この一般論や常識は通用しないものかもしれない。
 次回は、守秘義務を果たさず、遺憾だと言われた理事・永井愛氏のメモについて書く。