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「財団法人新国立劇場運営財団の存廃」について考える(十六)

行政刷新会議の事業仕分けで、文部科学省・文化庁の事業に「廃止」「整理・削減」連発(9)
会計検査院に指摘された「芸術創造活動重点支援事業」の杜撰さ(3)

 前回は会計検査で指摘された<事例2>を検証し、文化庁とC財団法人の対応も含めての幾つかの疑問点を指摘した。
 一昨日、このブログを丁寧に読んでくれている学生時代の友人から、「かつては自治体の補助制度での請求も支給も随分とルーズだったけれど、今の時代に、この文化庁の助成金制度の取り扱いはひど過ぎる。C財団法人とやらは、いったいどういう予算管理をしているのか、助成金を過大に受給しようとの犯意があるとしか思えない」とのメールを貰った。厳しい意見だが、税金がルーズに、無駄に使われていることに対する一般の国民の怒りであり、ここで敢えて紹介する。
 今回は、このC財団法人が主催した公演で、そのひと月前の収支予測が、その翌月の公演実績と大幅に違う点を中心に考えてみたい。
  
 前回の<事例2>の流れを再度整理する。

1)文化庁は、C財団法人のD公演に対し、平成16年1月に提出された計画書等を審査した結果、採択決定した。
2)請負契約に当たり、16年6月に提出された見積書等に基づき、2679万円を支援限度額と算定、この額を基に2600万円で契約を締結。
3)C財団法人は同年7月に当該公演を実施し、翌年4月に同額2600万円の支払いを受けていた。

 しかし、平成18年度に行われた会計検査院の文化庁に対する会計検査によって
4)実績報告書等の実績額によると、入場料収入等の収入額は5859万円、出演費等の支援対象経費は7071万円。従って、金額〔2〕は支援対象経費7071万円に3分の1を乗じて得た額である2357万円となる。
5)一方、金額〔1〕は支援対象経費7071万円から収入額5859万円を除いた1212万円となり、金額〔2〕を下回る。
6)このことから、実績支援限度額は1212万円となる。
7)したがって、支援額2600万円はこれを1387万円超過(超過率114%)する結果となっていた。

 そして、現在のところは、
8)超過した支援額である1387万円について、文化庁は会計検査院の指摘に従い、C財団法人に対し国庫への返納を指示したのかどうか、C財団法人はその指示に従い、1387万円を返納したのかは、ともに不明である。
9)また、この18年度の会計検査では、15年から17年度までの該当助成制度のうちの27億7838万円分についてのみ検査し、支援限度額を超過したものが検査した172件中に60件あり、その額は1億78百万円だったとした。その後にでも文化庁自らが悉皆検査をしていれば、三年度分の支援限度額を超過する金額は20億5千万円規模程度だったと推測できる。

 この先はすべて推測である。
 まず、該当公演のひと月前に提出された見積書等には、当然のことだが収入予想は書いてあるだろうが、この検査報告書にはその数字がない。取り敢えず、製作費(総支出)を推測する。
2)には「支援限度額を2679万円と算定 」とあり、この支援限度額は支援対象経費の3分の1(金額[2])であるから、
2679×3=8037。従って、支援対象経費(≒総支出)は8037万円超であろう。
 他方、収入の部だが、「支援限度額は、支援対象経費の3分の1(金額[2])と、支援対象経費から収入額を除した額(金額[1])の低い方とする」規定があり、この事例では、2679万円を支援限度額と算定したのであるから、(金額[1])、簡単に言えば「赤字額」も2679万円超であったろう。従って、
8037-2679=5358であるから、収入予想は5358万円を下回る額だったと推測できる。
 従って、 収入           5358万円を下回る。
      支出(支援対象経費)  8037万円程度。
      収支            △2679万円超。
 これが、公演ひと月前にC財団法人が試算し、文化庁に提出した収支予想に近いものだろう。
 そして、4)にあるように、C財団法人の実績報告書等によれば、
実績は   収入           5859万円
      支出(支援対象経費)   7071万円
       収支          △1212万円 

 収入について言えば、ひと月前のチケット等の売り上げ予測が53百万円程度で、予測よりも一割程度のチケットの売り上げ増があったのだろう。ホールの客席数も公演回数も判らないが、一割程度(5百万円)の売り上げ増加は特段珍しいことではない。
 しかし、支出については、公演直前に8千万円を超えるとされた支出予想が、1千万円も圧縮され7071万円で収まったとは驚異である。仮に「最後まで製作経費の削減努力をした結果」だとしても、あり得ない縮減幅である。公演直前にこれだけの縮減ができるのであれば、文化庁助成金(税金)など得なくとも自力で運営できるだろう。
 単純な計算間違いをして提出し、文化庁もそれをそのまま通してしまった、ということもあり得ないだろう。助成金に頼る公益法人や、助成金制度さえ満足に管理できない官庁に、そもそも原価意識などないことは承知しているが、ことは原価意識の欠如ではなく、助成金の原資である国民の税金を私するかのように助成金の受給を常態化させ、自立、自助努力を忘れ、それに縋ってずるく生きる処世を身に付けたホール関係者、舞台芸術関係者の問題である。
 被助成団体に公演実績報告書を提出させながら、それを精査して、「内定後に内容、収支予算に重要な変更が生じていると認められる場合は、支援の一部又は全部を減額する」との自らが作った規定を遵守し執行しない文化庁の怠慢は許されるものではない。
 
 支出想定額(支援対象経費)を実際より水増しして、収入予想額を実際より低めに設定。
 支援限度額を極力大きくしようと知恵を働かせ、助成金をせしめる。 
 なんとも卑劣な助成金獲得手法である。