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推奨の本《GOLDONI/劇場総合研究所 2020年5月》

 東倉洋一編著『22世紀への手紙』-生命・情報・夢 
  NTT出版 2001年3月刊

 -生き延びるために-
 地球上における諸悪の根源は何か。言うまでもなくそれは「人間」そのものである。限界を超えつつある人類の繁殖(産業革命以降の人口爆発)、それに伴う「エネルギー」消費増大、「環境」汚染の制御こそ、生き延びるための根本的課題の筆頭にあげるべきものである。このような観点から、われわれは研究開始にあたって、「エネルギー」「環境」、そして「人間」を取り上げることにした。 
 現在のアメリカ並みの生活形態を維持しようとすると、地球が養い得る人口はエネルギー的には五億人、食糧的には二十億人とも言われており、すでに破綻は見えている。まるで、繁殖しすぎて崖に向かって突進してゆく動物のような人類の行動がもたらす巨大な災忌を想像するならば、この人口問題を軟着陸させるシナリオこそ、まず何としても確立すべきものである。さらに、アメリカ、ロシア、EU、インド、中国、インドネシアといった人口大国がその内部に抱える、人種、民族、宗教間の矛盾と、それに重畳している貧富差の問題、イスラム教圏とキリスト教圏、また南北問題に象徴される先進国と開発途上国間の問題、これらはすべて人口問題と関連している。一八世紀の産業革命から一九世紀を通じて煮詰まってきた矛盾を解こうとして、二〇世紀に人類は数え切れない愚行と悲惨さを重ね、二度の世界大戦と冷戦および多くの地域紛争に疲れ果てた。空海の『秘蔵法鑰』に示された「人間の暗さと冥さ」という根源的人間理解に基づいて考えるならば、人類はこれからもまた、類似の愚行を繰り返すに違いない。「人口」とそれに関連したこれらの問題は、そのきわめて危険な引き金である。
 本来、問題の解決に役立つはずの「科学技術」は、もう一つの重要な知的生産物である「哲学と倫理」衰微のために、人類の手におえなくなりつつある。この二つのギャップが埋められない限り、二二世紀への展望は暗いものにならざるを得ない。そこで重要となるのは、空海の思想体系に見られるような「総合」というキーワードである。単なる自然科学面からの解決策では不十分で、社会科学、人文科学も含めた総合的アプローチが必須である。すなわち、単なる物質世界の制御だけでなく、社会システムの制御のための方法論が研究されねばならないのだ。

 -終わりに-
 「二二世紀へのまなざし」への一つの試みとして、コンポン研究所の「創設理念」とでも言うべきものについて述べた。根本的課題を考えるなかで、「エネルギー」「環境」「人間」の三分野を取り上げているが、関心はどうしても「人間」のほうへ向いてゆく。人間の知的生産物である広い意味での「科学技術」が著しく変化してゆくのに対し、人間自身は本質的に変わらない。このあいだのギャップをどう埋めるかというのが私の基本的な疑問である。千二百年前の空海は、この問題をどのように取り扱ったか。彼にとっては「人間の本質」こそ一生かけて究明すべき大問題であり、「科学技術」はそのような強固な基盤の上に立てば取り扱いに窮するようなものではなかったのではないかと思われる。私の疑問を解く鍵はこのあたりにあるのかもしれない。
 井上悳太=著 『「コンポン」へのまなざし---一つの試み』より
《いのうえ・とくた》
 一九三九年生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程(機械工学)修了。トヨタ自動車東富士研究所にて、低公害・低燃費エンジンの開発に従事。発明協会恩賜発明賞(一九八七年)などを受賞。同社取締役東富士研究所副所長を経て、現在顧問。トヨタグループ十二社で設立したコンポン研究所取締役副所長(2001年3月)