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Samuel Frenchのカタログ

酷暑、熱風が吹く午後、勉強熱心な青年たちの来店が続く。昴演劇学校2年のF君、演劇実習のための、キャラクター4、5人の戯曲を探しに1ヶ月ぶりに来店。ある程度は海外戯曲を読んでいて、日本の現代戯曲が、自作自演でしか水準に成り得ないことは判っているようで、日本の戦前、あるいは海外戯曲についてのレファレンスがしやすい。急ぎのmail連絡があったので、アンチョコにしているSamuel Frenchのカタログを渡し、『これ見て探し始めていなさい』。
最近の新劇団の付属養成機関の卒業公演や実習公演でも、指導している担当の演出者が、自作自演型の戯曲を遣りたがる傾向があり、海外・国内の別なく、写実であれ、不条理であれ、未熟だが俳優として取組み甲斐のある秀作を稽古・上演したいと思っている生徒たちを失望させているそうだ。とくに卒業公演は、演劇を僅か2、3年だが学んだ彼らの大半が、劇団員に昇格出来ず、志半ばで散っていく最後の舞台でもある。また、それは彼らのその日だけの最高の観客である家族やアルバイト先などの上司や仲間、学校の友人にとっても、滅多にない観劇の機会。生徒の一生の思い出になり、普段演劇と馴染みのない人々に観劇の楽しみを身近で感じてもらえる貴重な時だ。そういう演劇生徒たちの人生の大事な節目であり、劇団の存在意義や社会的認知を獲得する重要な機会でもあるという認識は、劇団の幹部、制作者、演出者にはないのか。
堅気の世界の方が知ったら呆れるだろうが、演劇・舞踊・音楽の制作団体を対象に、税金が補助金として投入される施策が採られて8年、事業規模にしては過剰なほどの補助金の、被受給団体による不公正な経費支出や不正な経理処理の事例は、俄かには信じがたく、またあってはならないことだが、現場とはほど遠い私のところにまで毎週のように届く。文化庁や国税庁、新聞の社会部辺りには詳しいことが入っているのか。日常化していて、掛り合ってられない、ということだろうか。
深夜や早朝のアルバイトで授業料・生活費を捻出してでも養成機関に通い、結果として志し半ばで演劇を断念せざるを得ない多くの彼らの幸いは、情も智も矜持も持ち合わせない、律することを知らない演劇ヤッテるつもりの演劇業界人にならないで済むこと、なのかもしれない。