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『GOLDONI』の彼岸の入り

午前10時、東銀座の時事通信新本社内に昨秋オープンしたホールへ。案内役はこのホールの建築コンサルに参画した照明家・岩下由治氏。氏は、開場の1年ほど前からよくGOLDONIに見え、このホールについての話ばかりか、劇場や演劇と社会の関わり方など、広範なテーマで話し合ったが、私がこのホールに足を運んだのは初めて。
東京の一等地である銀座に、260平米、天井高6.6m、客席数200〜300のフリースペースは貴重だが、1日60万円の使用料金は、会議やセミナー、ファッションショーなど企業イベントが中心になり、席単価二千円を超えるホールは、演劇公演の会場としては不向きか。運営面で気になる点が幾つかあったが、杞憂で終れば結構なこと。ビル1階の『スター・バックス』で休憩。注文をして下さる岩下氏より先にテラス席に着く。向かいの新橋演舞場を見、旧演舞場の佇まい、客席の雰囲気、終演後におとずれた静謐、叔母・市川翠扇の楽屋や、新派の名優や総務の大江良太郎との想い出に浸った。アイス・カフェラテを飲みながら、二十五年前にともに観た、カルロ・ゴルドーニの『二人の主人を一度に持つと』(ジョルジョ・ストレーレル演出、ミラノ・ピッコロ・テアトロ)の想い出話。互いに舞台照明、演劇製作に従事しながら、演劇やその組織・環境に違和を感じたり、自信を持てなかったニ十代半ば、プロセミアムを超え、躍動的な演技、観客を演劇行為に参加させるという見事な演出のこの作品は、彼にも私にも、劇場人・演劇人としての理想と誇りと自信を与えてくれた。人生を決めたのは、あのゴルドーニ体験だった。
18時30分過ぎ、両国のシアターカイへ。『ピアノのかもめ/声のかもめ』。在独の作家・多和田葉子、同じドイツで活動するジャズピアノの高瀬アキとの朗読と音楽のパフォーマンス。客席は大手新劇団の公演以上に高齢者が目立ち、またその大半がシアターカイの招待者のよう。多和田葉子の朗読を初めて聴いたが、興味深かった。ただ、斜め後の席に座る昔のテレビタレントのYのあげる笑い声が、異常で不快であった。彼女の隣には劇場関係者らしい若い男女がいたが、彼女に注意はしなかった。十年も前のことだが、出張先の京都で、俳優座劇場製作の舞台を観ていた時、携帯電話を鳴らしたり、客席ドアの真近で大声で話す関西では著名な劇評を手掛ける新聞記者がうるさく、注意の鉄拳を振るおうとした直前、今は文学座の企画事業部長を務める、制作担当の青年が私の気配を察知し、この記者をつまみ出し、私の出番がなくなったことがある。
ロビーで。訪欧から戻られたご常連の内山崇氏は、「また、パンフなどお土産を持っていきます」。学生時分からお付き合い戴いている照明家で劇場コンサルの大御所・立木定彦氏は、「お前の蔵書の『もうひとつの新劇史』(千田是也著)、貸してくれ」。四季在籍時以来ニ十数年のお付き合いの朝日新聞・山本健一氏は、「佐藤清郎さんの件の本、取り置きしといてね」。終演後、玄関前で山本氏と談笑。氏と別れた後、前を急ぐオジ様を捕まえ「女子大は如何」。返ってきた答は「蛸部屋(非常勤講師室のことか)」の一言。「インターネットをご覧になるなら、GOLDONIのHPを観てください」とのお願いに、「Googleで検索すれば出てくるんでしょう」。私、うっかり、「そう。先生の上のトップにあるから」。カルロ・ゴルドーニの最高の紹介者である田之倉稔氏、おおらかに笑っておられた。
おりしも彼岸の入り。銀座や両国の出張GOLDONIは、「カルロ・ゴルドーニ」を迎えた一日だった。