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『舞台芸術図書館』準備始動の新年

昨3日の12時、年末からの約束で劇団四季OBの俳優・浜畑賢吉氏が見える。03年夏に刊行された自著『戦場の天使』(角川春樹事務所刊)、東アフリカの自然保護などを会員の無料奉仕と寄付によって支援する『サバンナクラブ』(氏は副会長を務めている。)のカレンダー、缶ビール半ダースを手土産にしてくださる。本とカレンダーは、有り難く頂戴するが、四季を辞めた時に酒断ちをして以来飲まなくなったので、せっかくのビールは氏おひとりで飲むことになる。氏はGOLDONIでアルコールを口にした最初で最後の客か。昨年4月から専任の教授としてお勤めの大阪芸術大学での授業のこと、東京で計画されている演劇スタジオのことなど伺い、私が構想している、『舞台芸術図書館』や現役の演劇人の為のスタジオのことなどを聞いて戴く。個人の力で、俳優の教育なり、演劇製作者やドラマトゥルクの再教育の為の施設を作ることは難しいことだが、本気になって難事業に取り組む劇団の先輩を見送りながら、この1年を『舞台芸術図書館』作りに専心する決意を新たにした。何もかも官に頼るのではなく、個人で出来ること民間ですべきことは自己責任で成し遂げようとの今の社会では主流になった真っ当で当たり前の考え方は、こと演劇の世界では、四季育ちくらいしか持ち合わせない珍しいものかもしれない。
この4月には、新国立劇場の演劇研修所が立ち上がり、初年度は15人ほどの初心者を教えることになる。ここに初年度で6千万円ほどの税金が投入される。研修施設は劇場内のものを活用するのだろうから、設備には殆ど費用が掛からず、その大半は、そこで教える演劇関係者の講師謝礼になる。演劇部門の芸術監督はじめ、早々と委嘱が決まっているのか、『俺が所長になるんだ』と、はしゃいでいると評判の演出家も含めて、またぞろ金の匂いに敏感、いや、公共の務めに熱心な人びとで、劇場と言うよりは病院の関係者通用口を思わせる地下や、役所のような陰気さが漂う劇場内施設が、ますます非演劇的な空間になることだろう。
18時、劇団四季の広報部門で働くK君が新年の挨拶に寄って呉れる。話し込んでいたら、K君の携帯電話に同僚のT君から誘いの電話。汐留で待ち合わせをすることになったので、カレッタ汐留で開催中の『劇団四季展』を観ることにし、K君の案内で出掛ける。特設テントで設営された会場でK君同様に親しくしているT君と会い、三人で近くの『スターバックス』で30分ほどお茶を喫する。
今日4日からGOLDONIは営業を始める。最初の来客は、毎日新聞特別顧問の諏訪正人氏。氏は劇団四季の創設期に文芸ブレーンでいらしたので、劇団の大先輩のようにお慕いし、いつも興味深いお話を伺い勉強させて戴いている。今日は氏が旧制の中学生であった昭和23(1948)年、毎日ホールでご覧になった劇団俳優座公演『天使捕獲』(作・正宗白鳥、演出・千田是也、出演・千田是也、松本克平)の舞台の思い出を伺う。先ほど、所蔵の昭和30(1955)年、白水社刊の『現代日本戯曲選集』で、この『天使捕獲』を初めて読んだ。これほどの作品を試演会という形態で上演していた劇団と俳優、観ていた観客、そして戯曲のレヴェルをなくした今、それでも劇作に手を染めようという人々は、執筆を何年か止めてでも、この白鳥始め、書くべきものを持った作家の戯曲を、またその書かれた時代を勉強するところからやり直すべきだろう。
夕方、劇団四季の演出部OBの好川阿津志氏が見える。先日も年末のご挨拶にお越し戴いたばかりで、劇団の後輩ということあってか、弁えの足りない私などには、真似すら出来ない氏のお心遣い。反省し感謝する。『舞台芸術図書館』の設立についても、「あなたがやらなければ、個人民間の自助努力でそういう施設を作ろうという人は出てこないのだから」と叱咤激励される。
偶々だが、『GOLDONI舞台芸術図書館』の設立準備が始動する、そして『演劇書専門GOLDONI』が閉じる年の初め、若い時分に自助の精神を教えてくれた劇団四季の現役やOB、縁のある人たちと、『演劇』を語らった。