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新年、そして最後の年に思うこと

元旦の新聞から。毎日新聞3面の新シリーズ『語る-戦後60年の節目に』の一回目は、ハーバード大学名誉教授の経済学者、ジョン・K・ガルブレイス氏。『ゆたかな社会』(岩波書店)、『経済学と公共目的』(講談社文庫)などを学生時代に読み、「社会的公正への視点」などを学んだ、つもりでいる。記事を要約、あるいは引用させてもらう。戦後の日本の復興と国際舞台への再登場は、聡明さや規律正しさの天性の才能を持った日本国民の貢献によるもの。しかし中国、インドなどの今日の経済の台頭は目覚しく、この先の10年で日本は中国の陰に入り、もはや日本の成功はあり得ない。「戦後の努力は報われたのだから、これからは世界から敬服されることに力を注ぐべき」。「今、私たちは新たな段階を迎えている。どれだけ生産を上げられるかではなく、私たちが何をするかが重要になる世界の到来だ。教育、芸術、生き方…。そんな人間存在の基本となることの遂行だ」。「とりわけ、教育はその重要性において経済に匹敵するものだ。政府にとって最も洗練された仕事は、教育システムの質の向上に金と努力を傾注することだ」。「教育者や芸術家ら家庭や地域社会の幸福に資する人たちが前面に出てこなければならない。そんな時代になったのだ」。
経済バブルが終息した90年代、演劇や舞踊などの「舞台芸術」に、国や地方公共団体、それらの外郭団体から、かつてない助成金・補助金(税金)のばら撒きが目立つようになった。明確な評価基準も無く、透明性の担保されない経費支出が常態化され、海外研修も、団体や劇場の運営、作品の制作にも、芸能プロダクションの海外公演にも税金が投入される。助成・補助が無ければ個人も、団体も、劇場も成り立たなくなってしまった。この助成金・補助金漬けで、殆どの演劇人が麻薬中毒患者の様になってしまった。麻薬やアルコールの中毒は、苦しいがそれを絶つことで更生することが可能だが、今の演劇人に助成金絶ちは出来そうにない。規律を持っての日々の精進、時間と労力と叡智とを掛けての演劇活動、自助努力を尽くしての団体・劇場経営こそが、演劇人が一般社会から敬意を持たれる姿勢だろう。口惜しいことだが、この十数年で演劇人の気風は変わってしまった。そして、そんな姿を冷静に観察・批評すべきジャーナリスト・批評者はほぼ絶滅した。今日も多くの劇場の客席には、批評眼など最初から持ち合わせていないミーハーファンが幅を利かせている。
「世界から敬服されることに力を注げ」とのガルブレイスの遺言になるかもしれない言葉に、「演劇人は社会から敬意を持たれる経済的には貧しい人々」を取り敢えずは目指すべきと主張・実践し、多くの無視と、あるいは反感にあってきた私は、救われた思いだ。
力足らずに無名、経済的には貧しいが、僅かに残った矜持と、徒労に終るかもしれない行動にかける情熱が失せぬ今、舞台芸術図書館の設立準備を急ぐことにした。図書館の開設あるいは断念の如何にかかわらず、『演劇書専門GOLDONI』を今夏に閉じることも決めた。残り時間は少なくなったが、私なりの演劇への、そして社会への最後の務めを果たしていきたい。