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先達の予想的中の『新国立劇場』

新国立劇場が設立されるまでの経緯について、久しぶりに復習していて、これに参画した何人かの演劇人の当時の発言にとくに興味を覚えた。今回はその決定版とも言える資料から抜粋して書いてみる。
多くの演劇製作団体が加盟する社団法人日本劇団協議会の前身である任意団体・新劇団協議会の機関誌『会報』73号(1984年7月発行)に、第二国立劇場(現在の新国立劇場)問題をテーマにした、劇団俳優座代表の千田是也氏と劇団四季代表の浅利慶太氏による対談が載っている。

千田是也氏「あんなところに自分で首を突っこんでみたって、どうせ大したことはないんだ。みんないままでよりももっと積極的な関心を持って、おれたちの税金、下手に使うなということだけ見張っていればいいと思うんだな。(中略)
世界の国立劇場の歴史が示しているように、だれがやったって官僚化するものですよ。まして文部省からの天下りがたくさん乗り込んで来るおそれがあるだろうし。それから、これは第一国立劇場の管理の仕事をやっていた人に聞いたんだけど、芝居をやってた人間の方がずぶのお役人よりももっと官僚的になるそうだね。(中略)」

浅利慶太氏「第二国立劇場で一番心配なのは、二流の芸術家が官僚化して、あの中に閉じこもったら、サザエの一番奥のところにダニが入ったかっこうになっちゃってね。ほじくり出すのに困っちゃって、日本芸術の最大のガンになる。それを何としても防ぐということじゃないですかね。(中略)
芸術団体のわれわれがいまから農協の後を追っかけてもしようがないんであって、別の形で政府からもっと金を出させた方がいいと思うんですね。新劇団に対するいまの形の補助なんて要らない。もっと基本的に芸術創造というものに対する認識を改めて、それに対する国家の思い切った文化政策をたてさせ改めて必要な基盤に投資させる必要があるということです。(中略)
僕はわりと文部省に限らず行政官庁にはっきり物をいってますが、補助金をもらっていないからです。官のひもがついては何もいえません。」

新国立劇場については、官僚以上に官僚化してか怠け切る劇団・商業劇場出身の職員、ダニのようにか劇場の企画・運営・養成に入り込んでしまった実際家や評論家の怪しい行状を見聞きするたび、演劇に対する文化庁の助成・補助については、不適正な受給などの噂を耳にするたび、この対談にある21年前の二人の先達の予想が現実となり、戒めが活かされていないことを痛感する。不作為、怠業は日常的であるが、法律違反として追及できず批判をすることしか出来ないが、助成金(税金)の不正受給は犯罪である。
文化オンブズマンや司直の手を煩わす前に、何とか自浄することが出来ないだろうか。演劇の外の人たちの『提言と諌言』を期待する。