2021年07月

Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

アーカイブ

« 「閲覧用書棚の本」其の十七。『歌舞伎談義』 | メイン | 『旧国鉄官僚』の責任の取り方について »

『規制改革・民間開放』と『新国立劇場』

内閣府に設置されている規制改革・民間開放推進会議が12月21日に決定した最終答申では、公共サービスを官民の競争入札にかける『市場化テスト』法案の次期通常国会への上程と実施を促している。
答申には、来年度に実施すべき市場化テストの対象事業として、社会保険庁、ハローワーク、統計調査、刑務所施設、地方公共団体の窓口業務のほか、科学技術振興機構、日本学生支援機構など6独立行政法人を対象とするよう求め、『官業の民間開放』として、国立博物館、国立美術館、文化財研究所は民間委託を拡大、政府の民間開放・市場化テストに関する議論などを注視し、質の向上の検討や工夫を速やかに行う、などと提言している。
「小さくて効率的な政府」の実現に向けて―官民を通じた競争と消費者・利用者による選択―と題したこの答申の前には、以下に引用する文章が載っている。

≪「規制改革・民間開放」の諸改革の背景に共通する課題は、「官による配給サービス」から「民による自由な競争・選択」へと制度の転換を図ることにある。
 官自身あるいは官が定めた特定の者だけが、官によって予め決められた財・サービスを提供する世界は、どの時代のどの国においても歴史上成功を収めることができなかった社会主義的システムにおける市場の機能を無視する配給制度と同様である。我が国の公共サービスの大部分は、この「配給制度」により支配されている「官製市場」の下にあるといっても過言ではない。「配給制度」は既得権益と非効率を擁護する考え方であり、これを民による自由な競争と消費者・利用者による選択を基本とした公平な市場を、官が責任をもって形成することへの転換を図ることにより、経済社会の発展と、生産者や官の関係者の特殊な利益を擁護することのない消費者を見据えた国民の利益の増大を公正に実現する必要がある。官だけがいわゆる公共公益性を体現できる唯一の主体であるという旧来の発想は終焉を迎えたと言わなければならない。≫

新国立劇場・情報誌『ジ・アトレ(The Atre)』の2006年1月号の巻頭ページは、この新国立劇場運営財団の遠山敦子理事長の「新しい年に向けて」と題する挨拶が載っている。このページの紙面構成・デザインは、政府広報の典型のようで、さすがに官の劇場だけのことはある、と感心させられたが、文章は新年の挨拶という定型・無意味なものではなく、初めて聞かされるような話もあり、興味深いものであった。
そこでは、97年の開場以来僅か8年で国際的にも大変評価される劇場になったこと、優れた歌劇場が参加する「オペラ・ユーロップ」にヨーロッパ以外で初加盟したこと、新国立劇場を訪れた芸術家たちからは、世界で三本の指に入る優れた劇場と評価されていることなどが記されている。また、劇場は国立の名を冠しているが、運営をしているのは民間の財団であり、サービス精神に富んだ劇場にすべく、職員の意識改革にも積極的に取り組んでいる、とある。
「自己宣伝で卑しいことですが」、などと一応断わりながら、新聞や雑誌に掲載されたGOLDONIの紹介ページなどのコピーをお配りすることがあるので、ましてや自分のところの広報・情報誌が手前味噌を並べたてることに、私は寛容なつもりである。
ただし、この時代に「国際的にも高い評価」とは如何なる基準でのことか、「オペラ・ユーロップ」が如何なるものか、そして新国立劇場が世界の歌劇場の三本の指の一つとすれば、他の二本はどこなのか、あるいは新国立劇場の後塵を拝する歌劇場はどこなのかなど、こういう機会にはもう少し具体的に知らしめようとするのが、民間の事業者がする宣伝であり、告知であり、ご挨拶ではないだろうか。
サービス精神や職員の意識改革は、民であれば当然で、こと改めて劇場の利用者・観客に強調するところを見ると、その決意は余程のこと、なのかもしれない。

平成18年度の政府予算案はこの24日に決まった。恒常的な不正受給が明るみに出たこともあり、文化庁の舞台芸術支援制度・新世紀アーツプランと称される補助金制度の予算が大幅に削減されたり、チケットのばら撒きやタレント依存の演劇製作で批判の多い新国立劇場運営財団への委託費用(税金)が減額されることになったりしていないか、文化庁や新国立劇場を微力ながら人知れず応援してきた私には、事の成り行きが心配で、この十日ほどは、『提言と諌言』を書けなかった。