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『規制改革・民間開放』と『文化芸術振興』(壱)

今回は三回に分けて、<『規制改革・民間開放』と、『文化芸術振興』>について書いてみる。
旧臘28日に、<『規制改革・民間開放』と『新国立劇場』>と題して、規制改革・民間開放推進会議が決定した最終答申について触れた。
この答申案が報道される一月半ほど前の11月3日、『効率化追求による文化芸術の衰退を危惧する』とのメッセージが出された。
千三百字ほどのそのメッセージを要約する。
≪文化芸術の分野においても、市場原理の導入や、効率性・採算性を重視した施設運営を求める声がある≫
≪その振興には、市場原理や効率性・採算性とは相容れない面があり、一律に効率性を追求することは、極めて危険≫
≪目先の利益にとらわれることなく、息の長い取組みにより、優れた文化を創造し、かつ継承していくことが、世界に誇れる品格ある国作りにつながるのである≫
≪伝統を異にする国立美術館、国立博物館、文化財研究所を統合すべしという提案や、いわゆる「市場化テスト」を適用しようとする動きには、わが国の文化芸術の衰退につながるものと危惧の念を覚えざるを得ない≫
≪日本のみが安易に、採算性や経済効率追求を至上命題とする改革を行えば、国際的にもわが国の文化芸術に対する姿勢に疑問を持たれる≫
≪5年前に独立行政法人になった際に、各館の目的や運営方針を踏まえ、四つの国立美術館が一つの法人に、三つの国立博物館が一つの法人に統合した≫
≪様々な文化的催しの開催による施設の有効利用や開館時間の延長などサービス向上や経営改善の努力が見られる≫
≪さらなる統合を行うことは、これまでの努力を無にし、文化施設の多様性の喪失に繋がる≫
≪文化はその国のあり方を示すものである。「文化立国・日本」の実現に向け、長期的かつ国際的な視野に立ち、文化芸術振興のための議論が展開されることを切に望み、私たちのメッセージとする≫

声明の文言や、発表を敢えて文化の日にセットしたことからも、文化庁主導であることを隠していないメッセージだが、その呼びかけ人は、日本画家の平山郁夫氏と美術評論家の高階秀爾氏である。賛同者には建築家の安藤忠雄氏、照明デザイナーの石井幹子氏や、有馬朗人氏はじめ国立・私立大学の総・学長やその経験者が並ぶ。人寄せパンダを自任しておられるのか、この手の声明には常連の作家・井上ひさし氏の名があることには驚かなかったが、意外だったのは、業務改革の先頭に立ち、その批判の矢面にも立たされていて、経営に専念専心しているはずの新国立劇場運営財団の遠山敦子理事長や、NHKの永井多恵子副会長も(とくに永井氏の場合は、文教ジャーナリストという耳新しい肩書になっている。公私の峻別に厳しい方なのかもしれないが、寡聞にして氏の演劇批評にも美術批評にも触れたことがなく、文教ジャーナリストというほどの職業や立場があったことにも驚ろかされた。)、日本の芸術文化の先行きに不安に駆られてか危惧の念を持たれてか、矢も楯もたまらずにか、名を連ねている。
言論・表現の自由が憲法で保障されている日本ではあるが、行財政改革が最大の国内政治テーマになっている昨今、その改革を推進する内閣機関に対して、天下りの渡り鳥やお飾りトップのはずの「公的組織」の長が、こんな反攻の挙に出るとは思わなかった。
文化庁が主導したと思われる、「賛同者の名前を貸しただけ」との言い訳では済まない批判行動、「公的組織」の存亡消長に予算編成で影響力を持つ財務省や、NHKの監督官庁でもある総務省の高官たちには、どう映ったのであろうか。