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バイエルン総監督・ジョナス氏の講義録(七)

サー・ピーター・ジョナスは、非常に説得力のある、的確かつ示唆に富んだ長い講演を終えて、会場からの質問を集約するモデレーターと再び壇上に上がった。
最初の質問は、ジョナス氏が芸術監督、劇場総監督として活躍してきたシカゴ、ロンドン、ミュンヘンの三都市のスタイルの違い、オペラ上演の違いについてである。
ジョナス氏は答える。以下は要約である。
私はロンドン生まれであり、ロンドンは非常に気楽に感じる。本当にいい都市だと思うが、生まれたところだから、あまり影響を受けない。シカゴは20世紀の新しい世界、建築、視覚芸術のエキサイトメント、いろいろな意味でニューヨークよりもエキサイティングで美しい都市である。ニューヨークとニースを組み合わせたところもあって素晴らしい。
シカゴからロンドンに戻って、エキサイティングな時を過ごした。サッチャー首相の時代で、私が総監督を務めていたイングリッシュ・ナショナル・オペラは、僅か3、4年の間に、それまでの助成金7割、劇場収入3割の劇場の総予算の比率を、50対50に変えさせられた。サッチャーからすれば、「芸術は権力に反対する」ものだが、芸術、芸術団体にとっては、「反対をする対象がある」ことが重要である。
90年代初頭のミュンヘンは、非常に保守的で、世界の代表的な文化都市だが、人口はたったの110万人で、オックスフォードの2倍ほどの小さな都市である。オペラとしては、シカゴは非常に保守的で、私がいたころよりももっと保守化している。ヨーロッパではよく言われることだが、ベルリンの壁は崩れたが、その壁は大西洋に行ってしまった、と。アメリカには11年住んだが、同じ英語を遣っても、通じ合わない。話が出来ない。最近はブッシュによってアメリカは変わった。そういうことは、オペラの解釈にも影響を与えている。ロンドンもオペラや演劇が保守化してきている。これは政治的理由よりは経済的理由からだ。今のロンドンは、経済のジャングル、容赦の無いところ。物質的な価値のみが大切になり、芸術団体にとっては大変につらいところになってしまった。ミュンヘンは芸術的な自由度も高いが、保守的でもある。新しいプリミエの製作はアイデアの戦場と化し、上演時には敵がずらりと並ぶほど。公演後はブーイングし合い、叫びあって攻撃し、また賞賛し合う。ミュンヘンは、こんなことが起るほど、芸術的に生き生きとしている都市である。