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「新国立劇場の開館十年」を考える(十五)
≪巨額な国費が投入されながら、理事長・芸術監督が専念しない不思議な劇場(三)≫

 経営の健全化を求められるNHKの子会社の取締役も務める遠山理事長 
 今回は、遠山敦子氏が兼職している、株式会社NHKエンタープライズについて書く。
 遠山氏は、トヨタ財団の理事長就任と同様、一昨年亡くなった東京大学名誉教授の木村尚三郎氏の後任として、NHKエンタープライズの社外取締役に就任している。木村氏の後任に遠山氏が選ばれた理由は判らぬが、これは偶然ではなく、文部科学省大臣官房の差配なのかもしれない。西洋史家、西洋文化研究者として著名な木村氏に比肩する教養人は遠山氏を措いて他にないとの認識が、トヨタ社内にもNHK局内にも共有されていた、ということなのかもしれない。
 2月26日夜のasahi.comには、「NHK経営委員会は26日、NHKの次期中期経営計画策定にあたっての重要検討事項7項目について協議した。来月11日の経営委で福地茂雄会長ら執行部に提示、具体的な計画づくりに入ってもらうという。執行部が5月までに計画の素案を策定。経営委が再検討の上、7月末までには最終案を出してもらい、9月には経営委が議決したいとしている。会見した古森重隆委員長は検討事項の内容を明らかにしなかったが、受信料、組織や経営の体制、番組の内容などについて、「テーマと考え方を示している」と話した。」とある。また、2月29日午後のasahi.comでは、福地茂雄会長が受信料の値下げを11年以降に先送りする考えを明らかにしたあと、懸案となっている関連会社との随意契約について「「金額、割合とも大幅に見直す」と述べ、番組の発注方法を見直す方針を表明。看板番組の「NHKスペシャル」も制作するNHKエンタープライズなどとの随意契約を3月から段階的に競争入札などに移行させる」などと語ったそうだ。
 NHKの来年度予算案を審議する衆参両院の総務委員会は3月には始まる。福地会長の適格性についても取り上げられるだろうが、NHKと関連団体との関わりについて不透明であるとの指摘が高まっていることもあり、最大規模の子会社であるNHKエンタープライズの経営内容についても議論されるだろう。放送番組制作、映像ソフト販売、イベント事業などを展開する、このエンタープライズ社の株式比率は、NHK本体が80.72%、関連8社が16.53%で、合計97.25%。昨年度の売上は430億円で、NHK本体からは制作受託料266億円を計上している。その売上比率は61.8%である。
 昨年11月に出された会計検査院の平成18年度決算検査報告書によれば、平成17年度末でのNHK関連33社の内部留保(利益剰余金)は886億円で、そのうち、エンタープライズ社は最高の156億円。同報告書には、18年6月9日の参議院本会議で採択された内閣に対しての警告決議が載っている。その一部を紹介する。
 「…NHK関連団体に多額の余剰金が積み上がっている事実は看過できない。」「政府はNHKに対して、綱紀粛正、内部監査の更なる充実によるこの種事案の再発防止に向けた取組、及びNHK関連団体が保有する多額の余剰金の見直しの検討を強く求め、国民・視聴者の信頼回復に努めるべきである」。
 NHKでは本年1月末に会長・副会長が引責辞任したばかりである。新任された放送界には不案内の会長と、彼を推薦した経営委員長との不協和音が早くも噂されているそうだが、上述したように3、4月の衆参両院の総務委員会はこのNHK問題でも荒れるかもしれない。常に整理統合の対象として取り上げられることの多いエンタープライズ社にとっては何とも厳しい状況だと思うが、遠山氏はこの事態を理解出来ているのだろうか。就任前に、会計検査院の報告書を読んでいれば、引き受けることはなかったのではないかと思うのだが。因みにこの報告書には、文化庁の文化振興費について、「本院の指摘に基づき当局において改善措置を講じた事項」、砕いて言えば、不適正な支出を指摘して改善させたものとして、遠山氏が文部科学大臣を務めている時期に実施していた芸術創造活動支援事業での不適正な会計処理を指摘している。このあたりのことは、この<提言と諫言>で近く始める予定の『文化庁の助成・補助金政策について』とでも題した連載で、たびたび言及するつもりである。

 歴代の文部事務次官は十指を超えるほどの外郭団体・公益法人の役職を与えられるようだが、民間の、存続すら懸念される企業の取締役を引き受ける者はいないだろう。遠山氏が就任した経緯は判らぬが、事務次官こそ逃したが、文化庁長官、そして文部科学大臣まで務め上げた遠山氏、「歴代の次官より多い役職が欲しかった」などという恐ろしく軽薄幼稚な理由での就任ではないだろう。