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「閲覧用書棚の本」其の十八。『人物評論』創刊號(四)

≪政界内報≫
松岡全権人氣失墜
―同僚の嫉妬と性格の祟り  荒木の影も薄らぐ

 國際的にも、日本的にも、あれ程壓倒的な人氣を持つてゐるらしいジュネーブ全権、松岡洋右の評判が、この頃に至つて特に御本尊の外務省方面に、格別惡いと云ふ確かなニュースがある。今迄のデクの棒式な、英語一つろくに話せぬ全権に比べると、洋右先生あまり器用に、派手に、上手にやつてのけたため、却って御殿女中式役人根性から、漠然と嫉妬された結果だらうと、某消息通は語つてゐるが、實は他にも原因があるらしい。
 松岡と云ふ男は、大體がアメリカじこみの半毛唐人で、よく饒舌るし、よく議論もするし、とかく俺ほど頭のいい人間はナイぞ、と云つた風な高慢ちきな性格である上に、滿鐡でも、實業界方面でも、誰からも煙つたがられて來た人物なのである。洋右に一番必要なのは、お饒舌を慎むことと、高慢な量見を捨てる事と、もう少し馬鹿になる事。結局は俺が、俺がと、どの席へも出しやばらぬ事などである。人間から受ける感じには、鶴見祐輔を少し大人にした様なクサミがあるからいけない。どうせ洋右の大芝居は、内田外交の強腰と云ふよりも、荒木貞夫をめぐる連中の支持があるから、あれだけ派手にやれたわけに違ひないが、この頃の政變の中心がまた少し變つて來て、荒木の痩せた髯つ面が、少々ばかり影も薄くなつた様に考へられるのは面白い。
 

≪財界内報≫ 
今太閤馬脚を現はす 
―「おれは齋藤首相と同ぢや」とインチキな智慧の出しやう

 没落人では智慧者今太閤で通つた小林一三が、俺が俺がで東電に乗込んでみたところ、いくら智慧者でも宇宙の進化を逆に廻すことはできないので、一年たつても二年たつても相變らず東電は腰が立ちさうもない。流石の今太閤もよる年並みで、いくら頭を叩いても智慧が出なくなつた。やうやく小林でだめだとわかつたので、やつと去年の暮ごろから、東邦電力の松永安左衛門に押し出されさうだ、などといふ噂もぽつぽつ廣がりはじめた。小林の洋行説などもこのごろ出たものだ、ところでこれに對する智慧者の末路を思はせるやうな小林の見榮が面白い。いつも新しいことがわかつてゐるやうなことをいひたがる彼がいふには、今日の經濟界は従來の正統的な經濟原則は當てはまらなくなつた。それは政治でも同じことで、このごろは従來の憲政の常道といふことが必ずしも行はれなくなつた。そしてさういふ時局を救ふためには、政治の専門家ではない齋藤子などが内閣をとるやうになつた。しかしこれは一時の難局を救ふためのものであるから、それを切抜ければ再び専門政治家に渡してやるだらう。これは電氣事業などの方でも同じで、僕(小林)が東電をやるのはある期間の難局に處するためだ、だから一定のところまでくれば後は松永君なり誰なりに渡すことになるのだと、自分を齋藤實と同様に説明するところなどに細かい藝がある。智慧の出し方が少しインチキになつてきた。