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「文化庁予算の大幅削減」について考える(三)

五嶋みどり、ライプツィヒ弦楽四重奏団にみる音楽家の社会貢献 

 17日に在日ドイツ連邦大使館から届いたリリースには、「ドイツが東北を笑顔にする! ライプツィヒ弦楽四重奏団が東北の被災地で慰問コンサートを行う」とあった。21日から26日まで、被災3県の学校、カトリック教会などの7か所に出向くという。ライプツィヒ弦楽四重奏団は先月、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンの東京、金沢、東京藝術大学でのコンサートに参加、ふた月続けての来日である。日本への渡航自粛勧告が解かれた今も、福島原発付近への旅行自粛勧告がドイツ政府外務省から出ている中での被災地巡回であり、彼等の行動に感服させられる。
 今回のライプツィヒ弦楽四重奏団の巡回コンサートについて、今のところは東京のメディアで報じられていない。
  
 これもまた一般紙ではまったく報じられていないようだが、ある高名な音楽家の慈善事業について、5月31日のasahi.com に小さな記事が載っていた。
 ≪『五嶋みどりさんのバイオリンに被災地感動 郡山で演奏会』
 音楽で被災者らを励まそうと、クラシックやフォークソングの演奏会が29日、福島県郡山市内であった。
 「ビッグパレットふくしま」ではバイオリニスト五嶋みどりさんのミニ演奏会。五嶋さんは世界を舞台にした演奏活動と、幅広い社会貢献活動で知られる。3曲を披露すると、「感動しました」と握手やサインを求められていた。≫
 
 五嶋みどりは、指揮の小澤征爾、ピアノの内田光子、指揮の大野和士など、海外で際立って高い評価を得ている数少ない日本人音楽家のひとりである。南カリフォルニア大学ソーントン校で弦楽科の主任教授を務めながら、週末や、大学の休暇期間を活用して、アメリカ国内で46回、ドイツ11回、日本5回、イギリス4回など世界各地で84回(2010年実績)の公演をこなし、自らが代表を務めるNPOや基金での地域密着型の社会貢献活動、国連平和大使などの社会事業を続けている。
 6月6日、銀座・王子ホールで特定非営利活動法人ミュージック・シェアリング(理事長・五嶋みどり)の活動報告コンサートが開かれた。当日配られたパンフレットによれば、このNPOの活動は、「訪問先のニーズに合わせたコンサートの実施」、「特別支援学校の生徒に向けての楽器演奏指導」と、五嶋みどりがカルテットを結成し、アジアの国々を訪れ、学校・こども病院・児童施設などに生演奏を届けることで、普段西洋音楽に触れる機会の少ない子供たちが音楽を通じてクリエイティビティ・相互理解・向上心を育み、視野を広げ、明日への夢を抱くきっかけ作りを提供し、また若手音楽家の社会貢献活動の場を作ることによって音楽における社会貢献活動とはどのようなことなのかを知る「インターナショナル・コミュニティー・エンゲージメント・プログラム(ICEP)」がある。今回は、昨年12月にラオス国内17か所で実施したICEPの報告と、その活動に参加した五嶋と3名の若手演奏家によるベートヴェンとシューマンの弦楽四重奏曲の演奏だった。
 五嶋を聴くのは、2008年5月のエッシェンバッハ指揮フィラデルフィア管弦楽団でのチャイコフスキー・ヴァイオリン協奏曲の演奏以来3年ぶり。活動報告を語る五嶋からは、演奏同様に真摯な姿勢が感じられた。特に印象に残ったのは、「質の高い」という言葉を五嶋が度々遣ったことだ。
 初めて音楽演奏(舞台芸術)に触れる人、或いはその機会が稀である人にとって、音楽(舞台芸術)であれば何でもよい、というものでは決してない。質の高い演奏家(演者)が、演奏(舞台表現)に不利な状況であっても出来得る限りの質の高い演奏(表現)をし、音楽(舞台芸術)の面白さ重要さを実感する。質の低い、水準に届かない者たちの演奏・上演の稚拙さは、想像以上にそのような機会の少ない聴き手、鑑賞者も感じ取る。子どもたちをクラシック音楽嫌い、演劇嫌いにする最も強い力は、この質の低い演奏・上演である。学校巡回専門の音楽集団、演劇集団、舞踊集団などの活動の殆どは、これである。彼らの経済生活のためだけに存在する。それを主催する鑑賞組織、学校、教育委員会の罪は大きい。その公演のために国税(補助金)が投入されているとすれば、文部科学省・文化庁の罪はもっと大きいと言わざるを得ない。舞台芸術振興の名目のもとに、質の低いものまでに補助金を出すという文化庁の助成制度は、この筋の悪い施策を推し進める文部科学省・文化庁、その選考や審査に関与し、おこぼれに与かろうする文化系の批評やマスコミ、そして助成制度に縋るだけの「質の低い」舞台芸術関係者にとっては生命線なのだろう。
 ライプツィヒ弦楽四重奏団が、五嶋みどりが、そして多くの「質の高い」芸術家が被災地などで繰り広げる慈善活動が、彼らの演奏、活動に直接触れることのない多くの日本国民にとっても、極めて良質な芸術普及に、そして質の高い社会貢献活動とはどういうものかを考えさせる機会となることを期待する。