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新聞記事から   朝日新聞 2013年1月10日 夕刊

舞台 情深き女形の理想像   演劇評論家・天野道映

新橋演舞場
 名女形雀右衛門の一周忌追善狂言が昼夜にある。遺児の友右衛門と芝雀が出演し、甥の吉右衛門が主演する。どちらもすばらしい。
 昼は「傾城反魂香」。吉右衛門の絵師又平は吃音に悩みつつ、内に豊かな人間性を秘めている。芝雀の女房おとくはそれを知る故に夫の苦しみを共に泣く。
 友右衛門の雅楽之助もよく、歌昇の修理之助が又平に寄せる同情も温かい。又平が手水鉢に描いた絵が石を抜けて起こす奇跡は、人々の心の絆の証しである。
 (略)夜の追善狂言は「仮名手本忠臣蔵七段目」。幸四郎演じる大星らお歴々の陰で、吉右衛門の平右衛門は下級武士の悲哀を託っている。それでいて芝雀演じる妹お軽に見せる無骨な優しさは、この人の独壇場である。
 妹の兄の心を察し、その志をとげさせようとする。昼は夫婦、夜は兄妹。芝雀が立役に寄り添う情の深さこそ、雀右衛門が残した女形の理想の姿である。友右衛門は赤垣源蔵。(略)

浅草公会堂
 座頭の海老蔵の不敵な面魂は、しばしば自己中心的な雰囲気を醸し出す。
 第1部「幡隋長兵衛」の長兵衛は、序幕村山座では目をぎらぎらさせて、喧嘩を止めに来たはずが、売りに来たよう。長兵衛内では水野の屋敷へ行って死ぬことだけを考え、女房子供のことは深く考えない。(略)
 第2部「勧進帳」では、海老蔵の弁慶は自分の苦衷だけを見つめ、孝太郎の義経と心が通わない。こうした自己中心主義はかつては華だったが、次のステップへ進む必要がある。(略)