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『朝日』は「制定賞廃止」で見識を示せ(続)

朝日新聞の2月1日朝刊の第2社会面には、前日に催された朝日舞台芸術賞の贈呈式についての、写真付きではあるが、4百字足らずの比較的小さな扱いの記事が出ていた。グランプリ作品『歌わせたい男たち』と、特別大賞の蜷川幸雄氏には賞牌と200万円が、他の受賞者には賞牌と100万円が贈られた、とある。記事の締めは、秋山耿太郎社長の挨拶で、舞台芸術の発展に寄与できますよう微力を尽したい、とある。
この朝日舞台芸術賞は、読売新聞が1993(平成5年)に制定した『読売演劇大賞』の後塵を拝して、2001(平成13)年に制定。同工異曲な褒賞制度を始めたということからも、宿敵の読売に先行された朝日としてはさぞ悔しかっただろうと同情するが、読売の選考委員を辞した演劇評論家をすぐに選考委員に据えるなど、見識も節操も持ち合せていないのか、かなぐり捨てたのか定かではないが、二番煎じにもかかわらずか、だからこそか独自色を出すこともなく、肝心の賞を授かる方は、賞をくれる新聞社が、読売か朝日か毎日か、覚えていないものまで出る始末。跡追いの朝日新聞としては、それが狙いだった、のかもしれないが。
朝日舞台芸術賞の選考委員は、演劇評論家3名、舞踊評論家2名、映画監督1名、関西在住の芸能評論家1名と、朝日側から常務取締役編集担当、文化部長の9名。この3名の演劇評論家とは、東京大学名誉教授の小田島雄志氏、大阪芸術大学教授の大笹吉雄氏、元朝日新聞(旧)学芸部記者の天野道映氏。
彼等は演劇専門で、舞踊についての選考には加わらないのだろう。1名の映画監督とは山田洋次氏のことだが、偶に劇場・ホールで氏を見掛けることがあるが、舞踊などもご覧になるのだろうか。
朝日側の吉田慎一常務、鈴木繁文化部長の二人は、経営幹部として、あるいは文化面作りの責任者として多忙なのだろうと思うが、寸暇を盗んで足繁く劇場通いをされているのだろう。
昨05年3月6日の『提言と諌言』<http://goldoni.org/2005/03/post_81.html>見識・良識なき<学識経験者」が巣食う「芸術祭」>として、文化庁芸術祭の問題点を指摘した。
そこでは、「文化庁や助成団体、新聞などの賞の選考委員であることをちらつかせ、劇場や劇団からチケットを強要、パンフレットやホームページ等での執筆機会をものにし、なかには演劇の製作団体や劇場への助成金の獲得、不適正な経理処理にまで加担していると言われるほどの「学識経験者」を文化行政の周辺から、そして舞台芸術から追放すべき。文化庁に芸術祭の取り止めを勧める。」と書いた。
その後に、読売新聞の賞の運営に関わっていた複数の文化部長経験者にも、「選考委員の観劇のチケットくらいは新聞社で負担したらどうか」と提言したことがある。読売の賞の選考委員の中には、『提言と諌言』に書いたように、「読売演劇大賞の選考委員なのよ!」と自分のところに招待状が来ないことがケシカランと思ったか、恫喝紛いの物言いでチケットをせしめたと言われる者までがかつていた。観劇に大学の女子学生か若い女性を伴い、その同伴者のチケット代も払わずに受付で揉めたり、講師を務めていた新国立劇場の演劇研修所の生徒ともトラブルを起こすなど、見識や良識以前の常識を微塵も持ち合わせていない者までいる始末。
無理強いは論外だが、自腹を切って観劇しないことは無論のこと、祝儀・心付け、陣中見舞・さし入れなどの用意もせず、パンフレットなどの執筆機会や飲食接待などの持て成しを受ける腹づもりの観劇が、現代日本の演劇評論家の常識であり日常である。
この不見識非常識な者たちを支え、助長しているのが、芸術祭であり、助成制度であり、そして新聞社の制定賞であると、ことあるごとに主張しているが、常態化しているだけに、ことの異常さには誰も気がつかない。批判する私のほうが卑しいのではと、苛まれることすらある。
演劇評論家とか、文化政策研究者とかの学識経験者と呼ばれる、舞台芸術の愛好者でもなく、かつての好事家とは似ても似つかぬ者たちが、舞台芸術とりわけ演劇の基盤・環境、行政の文化政策が大きく変化するこの十数年のあいだ、いたるところで蠢動し跳梁している。
こういう者達を、「演劇業界ボス」化させる装置・機能の一つが、新聞社の褒賞制度である。この選考委員を引き受ける新手の業界人、そしてそのボス化が、演劇を舞台芸術を歪めているのである。
「舞台芸術の発展に寄与できるよう微力を尽したい」との朝日新聞社長の言、結構である。読売新聞はいずれ選考委員の鑑賞チケット代を負担することになるだろう。跡追いの朝日はどうするか。この際に褒賞制度を見直し、あるいは廃止して、『社会の木鐸』たる新聞の見識を示し、先行する読売の鼻を明かしてやったらいいと思うが、どうだろう。
朝日新聞に、『朝日舞台芸術賞』の廃止を強く勧めたい。