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「新国立劇場の開館十年」を考える(十)
≪NHK副会長を引責辞任した新国立劇場の評議員≫

 報道部門の記者らの株式のインサイダー取引疑惑が取り沙汰されている日本放送協会(NHK)だが、24日には橋本元一会長、永井多惠子副会長が引責辞任する事態となった。橋本会長ら理事会メンバーはこのインサイダー疑惑を昨年12月には把握していて、その発覚の隠蔽を図ったとの報道もあり、橋本会長、永井副会長始め全理事は、真相究明のために開かれる第三者委員会の調査を受けるなどの厳しい立場になりそうだという。
 このブログの二〇〇五年二月六日には、<『4月に崩壊する』か、NHK新体制>≫http://goldoni.org/2005/02/post_75.html
と題して、雑誌『週刊文春』が書いた同年四月の永井副会長辞職によるNHK執行部の崩壊説を取り上げ、<「やってられないわ!」と投げ出したい気持ちを抑えてでも、それまでの2ヶ月は大いに奮闘して戴きたい。>と永井氏の精励を期待した。『週刊文春』の早期崩壊説は残念ながら外れたが、本人の引責辞任、そして疑惑の真相究明の調査対象者になるという事態で、私の永井氏への期待も残念ながら大きく外れた。当時、永井氏は、せたがや文化財団の理事長を務めており、また中央官庁の審議会の委員を重複して受けていた。局員数一万二千人の大組織の最高幹部として、また毎年二千七百万円を超える給与を得ることになるその職務に専念するべきであると考え、参議院の総務委員会の委員を務める自由民主党、民主党の議員たちにその旨を伝えて、彼らからは「専念させる」との返事を貰ったことがある。永井氏のその後の活動は詳らかではないが、インターネットで調べた限りでは、せたがや文化財団理事、新国立劇場運営財団評議員にその名がある。公職を辞退して、NHK副会長職に専念していなかったことになる。「専念させる」と約束した議員諸公には、それが反故にされたことを糺さなければならない。
 また、二〇〇六年一月四日には、<『規制改革・民間開放』と『文化芸術振興』>
http://goldoni.org/2006/01/post_157.html

と題して、規制改革・民間開放推進会議が決定した最終答申について触れ、『効率化追求による文化芸術の衰退を危惧する』とする文化庁主導の反対運動に、美術界の重鎮である平山郁夫氏や高階秀爾氏、この永井氏、新国立劇場運営財団の遠山敦子理事長も発起人として加勢していることを書いた。<日本の芸術文化の先行きに不安に駆られてか危惧の念を持たれてか、矢も楯もたまらずにか、名を連ねている。言論・表現の自由が憲法で保障されている日本ではあるが、行財政改革が最大の国内政治テーマになっている昨今、その改革を推進する内閣機関に対して、天下りの渡り鳥やお飾りトップのはずの「公的組織」の長が、こんな反攻の挙に出るとは思わなかった。>
 永井氏が政治音痴であるのかどうかは知らない。この先にどんな咎め、どんな指弾を受けることになるのかも判らない。ただ、任期満了の退任まで数時間のところで引責辞任を迫られた永井氏の胸中は、察するに余りある。引責辞任したこの日の夜、永井氏は新国立劇場の大劇場でのオペラ『ラ・ボエーム』を、一階中央の普段は招待用に使っているであろう席で鑑賞していたが、果たして気を落ち着かせて終演まで楽しむことができただろうか。永井氏の三席隣りに着席していた保利耕輔元文部大臣は、永井氏を見掛けたとしたら、氏に慰めの声を掛けたのだろうか。或いは、劇場の役職員が最上席で鑑賞していることを訝り、叱責を与えただろうか。
 カーテンコールが終わり席を立つ時に中央の席、その左右の客席通路をみたが、既に永井氏の姿はなかった。