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「新国立劇場の開館十年」を考える(十七)
≪官僚批判喧しい最中、電通の社外監査役に就任する天下り劇場理事長(一)≫

 新聞メディアによる中央官庁の官僚批判が止まない。その中心は相変わらず「天下り」叩きのようだが、最近は深夜に自宅まで送る個人タクシーから、ビールやつまみの供応を受けるという「居酒屋タクシー」や、海外出張の折に、公費にもかかわらず自分のクレジットカードを使用して「マイレージの個人取得」をするという、官僚たちのあさましい振舞いに対する批判である。国土交通省は今後二ヶ月だけ、タクシーチケットを使用させないことにし、「マイレージの個人取得」については、先週末になって全省庁が自粛を指導することにしたそうだが、その実効性は疑わしい。公費を私して恥じないとは、官僚が既に公僕(パブリック・サーバント)としての本分を忘却し、自覚・節度を保持しなくなった証左だろう。行財政改革、とりわけ行政改革、公務員制度の抜本的な改革が求められている最中、これは昨今の新聞・テレビメディアが得意な末梢的な官僚叩きで終わらせる問題ではなく、議院内閣制下での、国会議員、とりわけ内閣を構成する与党と、その下で行政執行する官僚機構のあり方を再構築する、その端緒のひとつとして考えるべき問題である。
 中央官庁の若手官僚を対象に、海外の大学院や研究機関に留学させる「行政官長期在外研究員制度」が四十数年に亘って実施されているが、この制度を利用した官僚が、帰国後すぐに退職するという制度の食い逃げが顕著になり、それを読売新聞に追及された人事院が「帰国後五年以内に退職した場合、授業料を返納させる」という確認書を留学する官僚に提出させることになったと、三年前の二〇〇五年七月一日のこのブログで言挙げしたことを思い出した。ご笑読を願う。
在外研修制度利用者を自衛隊予備役に編入せよ
http://goldoni.org/2005/07/post_100.html
 
 本題に入る。この「新国立劇場の開館十年を考える」では、劇場トップである新国立劇場運営財団理事長の遠山敦子氏がその職務に専念することなく、トヨタ自動車や松下電器産業が作った財団の理事長や、NHKの子会社の取締役などの要職を兼ね、あまつさえ風俗営業法の規制を受けるパチンコ施設業者の団体の長までしていることを取り上げ、常勤理事長としての適格性に疑義を呈した。
 三月七日に書いた、「巨額な国費が投入されながら、理事長・芸術監督が専念しない不思議な劇場(四)」
http://goldoni.org/2008/03/post_225.html
を最後に、三ヶ月ほど劇場の動きを見守っていた。四月一日には理事長の再任が決まり、劇場管理部門は今年十二月一日に施行される一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に伴う新財団への移行の準備に入ったようだが、それ以外のことについては不明である。このブログについては、いくたりかの国会議員や、内閣府や財務省などの高官が読んで呉れていると聞いていて、また、新国立劇場のある幹部職員には、「新聞記者や評論家の発言とは違い、核心を突いた手厳しい指摘」との過分のお褒めまで頂戴している。しかし、肝心の劇場トップである遠山氏は、ブログでの発言など、取るに足らない、一顧の価値すらないものとの強い姿勢があるのだろう。文部科学省・文化庁の芸術文化の担当職員もチェック怠らないブログだと聞いたが、私のブログでの発言は、遠山理事長の目にも耳にも届いていないようである。インターネットで調べた範囲では、トヨタの財団理事長も、松下の財団理事長も、博報堂の財団理事も、パチンコの団体長も、退任してはいない。私の指摘を受けて、他の兼任ポストを辞することはこの先もないのだろうか。
 
 先月の新聞報道によれば、遠山氏は電通の社外監査役への就任が内定したそうである。旧大蔵省・国税庁の有力OB達の牙城でもある広告業界第二位の博報堂が作った財団の理事を辞することなく、広告業界最大手の電通の監査役に収まるつもりだとすれば、博報堂に対しても、ましてや電通に対しても非礼な振舞いのように小人の私には思えるが、社会常識に囚われない大胆な決断で恐れ入る。
 電通の平成十九年三月期の有価証券報告書によれば、社外監査役三名の監査役報酬の総額は四千三百万円。一人当たりでは一千四百万円を超える。今や文部(科学)省OBきっての肩書キング(クイーン)の遠山氏だが、その肩書きの多さだけでなく、所得の多さでも目立つだろう。「天下りの星」となり、マスメディアの注目が集まるだろう。なにせ、事務次官や国務大臣の報酬を遙かに超え、五千万円強といわれる内閣総理大臣報酬に匹敵する額を手にしようというのだから。
 電通の社外監査役は、単なる名誉職ではないだろう。一朝事ある時は、否、日常の緊張を強いられる重職である。遠山氏への就任要請は、単に天下り官僚を求めたもの、とは思えない。芸術界のボスからパチンコ業者までの幅広い人脈に期待してというものでもないだろう。監査役選任辞退の報道は今のところはない。たぶん就任に向けて数十の名誉職の退任の根回しやら手続きやらで大童であろう。
 日本最大の劇場のトップの職は、遠山氏にとっては二千万円程度の、実入りの少ないものなのかもしれない。しかし、だからと言って、兼務が許されるような気楽なポストではなく、激務であり重職である。一層の経費削減を迫られ、作品成果の向上が求められ、運営の透明性確保が課されてもいる、国立施設の、巨額な税金が投入されている劇場の経営である。文部科学省ばかりか内閣府等による業務監査や会計検査院の検査などにも備えなければならず、大袈裟に言えば三百六十五日、二十四時間、頭も心も或いは体も休まることのないポストである。専心して臨まなければならない本来の専任理事長に専念せず、他の複数の財団理事長や理事、会長を兼任という片手間仕事にしていた遠山氏だが、さすがに世界に冠たる電通の監査役が、今のままで務まるはずがないことは、本人がご存じなはずだろう。税金が投入される財団の常勤理事長が、民間企業の監査役を務めることについて、その是非を含めて、渡海文部科学大臣、銭谷事務次官の文部科学省最高幹部がどう判断しているか。公務員制度改革が前進することになった今、私たち国民は納税者は、退職公務員の再就職問題を、単なる天下り叩きでなく、じっくりと深く考える絶好の機会である。文部科学省最高幹部、そして当事者の遠山敦子氏には、結論を出すまでの時間的なゆとりは与えられていないが。
 遠山氏の監査役就任が正式に決まる電通の定時株主総会は、この二十七日に開かれる。